【 それは突然に 】
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【それは突然に =想うこと、愛すること=】



─── 15:45 茶道部部室

(コンコン・・・・、コンコン・・・・・・、)

「大澤さん、大澤さん!!」

(ゴンゴンゴンッ!!、ドンドンドンッ!!)

「大澤さん!! 居るんでしょ!! 開けなさい!!」


(ガラッ)


「植村先生、そんなに大声出さなくても聞こえてますよ。」

「大澤さん、坂口先生は、どこなの!!」

「いきなり、どうかされたんですか?」

「大澤さん!!」

「立ち話もなんですから、とりあえず、中にどうぞ。」

「時間がないのよ! 坂口先生をどこへやったの!!」

「そんなに大きな声を出すと、他の生徒が何事かと思いますよ?」

「っ・・・。」

悔しいけれど、この子の言う事に従い、茶道部の部室の中へ入った。
忌々しいほどに、落ち着いているこの子の態度が気にくわない。
全て、彼女の思うがままに踊らされていることが歯がゆい。

そうは思っても、今、早紀の身に危険が迫っていることは間違いない。

「せっかくですから、お茶でもいかがですか?」

「結構よ、私は話があって来たの。」

「その話しですが、坂口先生がどうかされたんですか?」

「とぼけないで!! この間、あなたが私を呼びだした日、
 あなた、意味深な事を私に言い残したわよね。」

「そうでしたか? 私何かいいましたっけ?」

「早紀を取られないように気をつけろって、あなた言ったでしょ!!」

「あぁ、そんな事言ったかもしれませんね。」

「あれは、どういう事なの!!」

「どうもこうも、先生が人気があるように、坂口先生も人気があるので
 ライバルが多いから、お気を付けくださいね、と言ったまでですよ。」

「ふざけないで!!」

「随分と、余裕がないんですね・・・。」

「私がどうなっても構わないわ。でも、早紀は関係ないでしょ。
 早紀を巻き込まないで頂戴。」

「そんなに、坂口先生が大切ですか?」

「決まってるでしょ!!」

「それは、同僚としての心配ですか? それとも?」

「そんなの、あなたに答える義務は無いわ。」

「先生? 今のお立場がお解りになっています? 私は質問しているんですよ?」

「くっ・・・。」

「坂口先生は、姉の渚に似てるから、大切なんですか?」

「違うわ!! 早紀と渚は別人よ。 関係ないわ!!」

「そうですか・・・。それなら、どうしてそんなに、坂口先生に拘るんですか?」

「そ・・・、それは・・・。」

「少し、意地悪でしたね。 それじゃ、質問を変えましょう。」

「今度は、何よ。」

「もし、坂口先生の事が好きな人が、他にも現れたら、どうされます?」

「どういう意味?」

「私が、未だに先生の事を諦めないように、坂口先生の事を純粋に想う人
 ライバルが現れたら、どうします?」

「どうするって・・・、何が関係あると、今の事と。」

「大ありだと想いませんか?」

「どういう事?!」

「私はこの間、もう一つ忠告の言葉を申し上げたはずですよ? 覚えていませんか?」

「なっ・・・。」

「人を想う気持ちは、誰にも邪魔できませんよ?とね。」

「っ・・・・。だから、どうだって言うのよ。」

「先生は、既に坂口先生の事を自分の物だと思い込んでいませんか?」

「えっ・・・。」

「坂口先生の気持ちはどうだか知りませんけど、先生が坂口先生を想うように
 他にも、坂口先生を慕う人がいた時、それを邪魔する資格があるんですか?」

「な・・・、何を・・・・。」

「生徒が先生を純粋に想うことだってあります。」

「でも、あなた達は、まだ学生じゃない・・・」

「恋に年齢は関係ありますか?
 姉と学生時代に付き合っていた先生が、それを言いますか?」

「それは・・・。」

「恋をするという気持ち、人を想う気持ちは、
 生徒だとか、教師だとか関係ありません。
 人が、人に惹かれることは、誰にも止められない、違いますか?」

「・・・・。」

「お解りいただけました?」

「あなた・・・、誰かを焚きつけたのね・・・。」

「焚きつけただなんて・・・、人聞きが悪いですよ。
 ただ、自分の気持ちに正直になるように、アドバイスしただけですよ?」

「そういうこと・・・。利害が一致したという訳ね。」

「まぁ、そう取ってもらっても構いませんよ。」

「奏・・・。一つ聞いてもいいかしら・・・。」

「なんでしょう?」

「たとえ、あなたが何をしても、私の気持ちがあなたに向かう事はないの。
 それなのに、あなたは、一体何がしたいの?」

「別に、自分の想いが届くとは想っていません。
 先生が、私を見てくれないことくらいわかりますから・・・。」

「それじゃ、どうして? なんでこんな事を?」

「先生にも知って欲しかったから。」

「知って欲しい??」

「先生、先生は今まで、好きになった相手が、必ず自分を好きになってくれると
 当たり前のように思っていません?」

「はぁっ?」

「姉の時もそう、想いが通じ合うのが当たり前だと思っているでしょ?
 片思いがどんなに苦しくて、辛いものか、きっと分からない。」

「そ、そんなことないわよ!!」

「いいえ、先生は分からない。
 諦めきれない想いの悔しさ、苦しさ、辛さ。報われない恋の悲しさを。」

「違うっ!! 私だって・・・、私だって、苦しんで来たわ!!
 私は、渚を愛していたのよ! だから、渚を失った時、傷つき、苦しんだわ!!」

「だから、先生は分かっていないんです・・・。」

「どういう事よ!!」

「それは、今はお話する事ではありませんから。」

「奏!!」

「先生? それよりも、聞きたいことがあるんじゃないですか?」

「っ・・・。」

「坂口先生が、どこにいるか、教えましょうか?」

「どこにいるの!!」

「先生? まさか、簡単に教えてもらえるなんて、思っていないですよね?」

「奏、あなたの望みはなに。」

「先生が、私を抱き締めてくれたら、教えてもいいですよ?」

「なっ!!」

「イヤですか? 別に、無理にとは言いません。
 選ぶのは先生ですから、どうぞ?」

冷たく言い放つと、奏は、立ち上がり、私の脇をすり抜けた。

「待ちなさい!!」

彼女の手を取り、彼女が望んだ通りに、奏で背後から抱き締めた。

「これで、満足? さぁ、早紀はどこなの?」

「ずっと、こうしていて欲しいと言ったらどうしますか?」

「いい加減にして!!」

頭に来て、彼女の肩を両手で掴み、奏の体を正面へ向けさせた。
そして彼女の眼前に顔を近づけ、強く問いただした。

「分かりましたよ・・・。そんなに睨まないでください。」

「早紀はどこっ!!」

「ご心配なく、坂口先生はあと15分ほどで、いつもの社会科準備室に戻ってきますよ」

「今は、どこにいるの!!」

「それは、言えませんね。」

「それじゃ、話が違うじゃない!!」

「大丈夫ですよ。坂口先生の身には何も起きていません。それはお約束します。」

「なにを証拠に信じればいいのよ。」

「まぁ、信じていただくしかないですけどね。 どうしますか?」

「っ・・・。早紀の身に何かあったら、私はあなたを許さないから。」

「えぇ、どうぞ。いつでもお待ちしておりますよ。
 そうそう、一応、私の携帯の番号とメールアドレスをお渡ししますね。
 何かありましたら、携帯に連絡してください。
 いつも、ここにいるとは限りませんから。」

奏はそういうと、鞄の中から、一枚の自分の名刺を取り出した。
そこには、自分の名前と携帯の番号とメールアドレスが記載されていた。

「私からあなたに連絡することなんて、もうないわよ。」

「それは悲しいですね。 まぁ、何かあればいつでもご連絡ください。」

私は奪うようにその名刺を奪い取り、振り返らずに、部室を飛び出した。

早紀の身に何も起きていないようにと思いつつも、今は、奏の言う事を
信じるしかなかった。

このままあちこち探し回っても、入れ違いになるかもしれない。
仕方ないので、社会科準備室で、早紀を待つことにした。

でも、部室をでた時、奏が小さくつぶやいた言葉は、聞き取れなかった。


「ウフフ・・・。さて、急がなきゃ・・・。」





─── 15:40 家庭科準備室

「さてと・・・、高瀬さん、どこから始めましょうか?」

準備室内の空き机に、高瀬さんの隣に座って、今日の為に
用意した資料を鞄から取り出そうとしたとき、小さな声が聞こえてきた。

「あ、あの・・・。」

「何? どうかしたの?」

「先生・・・、勉強の前に、一つ相談したい事があるんですけど・・・」

「相談?」

「はい・・・。」

「どんな相談なのかしら? 私で役立つかしら?」

「えっと・・・、先生に聞いて欲しくて・・・。」

うつむきながら、小さな声を出す高瀬さんを見て、少し違和感を感じる。
これは・・・、もしかして、勉強と言いながら、本当は相談したいという事が
目的だったのでは?

「高瀬さん・・・、違っていたらごめんなさいね。
 もしかして、補習というより、相談にのって欲しいっていうのがメインかしら?」

「あっ・・・、えっと・・・、先生ごめんなさい。」

「はぁ〜・・・。そうならそうと言ってくれれば・・・。」

「先生、本当にごめんなさい!! 先生にしか相談できなくて!!」

顔を上げ、涙を浮かべながら必死に誤ってきた高瀬さんを見ると、
怒る気が無くなる。とはいえ、相談したい事というのが、どれだけ深刻な問題なのかと
違うことで心配になってきた。

「分かったから。で、相談って何かしら?」

「あのですね・・・。」

「えぇ、何?」

「先生って・・・、先生は、同性に恋をするって、いけない事だと思いますか?」

「えっ?! な、何??」

「先生は・・・、その・・・、女性が女性の事を好きになるって、
 おかしい事だと思いますか? 間違ってると思いますか?」

「そ、それは・・・。って・・・、一体どうしたの??」

「先生・・・、実は・・・、私・・・、好きな人がいるんです・・・。」

涙を浮かべながら、下を向き、震えながら高瀬さんが小さな声で話しをする。
とはいえ、私自身、急にそんな相談をされた事で、頭の中が一瞬パニックになる。

同性に恋をすること・・・。
それは、つい最近まで、自分自身常に頭の中にあった悩みではないか。

梨江の顔が脳裏に浮かぶ。

「高瀬さんの好きな人は・・・、この学校の人なの?」

「はい・・・。もう、どうしていいか分からなくて・・・。」

「そう・・・。」


同性が同性に恋をする。
思春期には、良くあることかもしれない。
女子校という同性に囲まれた環境であればなおさらのことだ。

憧れから恋になるのも良くあることだ。

私自身、別に同性の恋愛について、嫌悪する気はない。
かく言う自分も、今梨江に惹かれ始めている事を否定はしない。

けれど、高瀬さんはどうだろう。
思春期は、ひどく感情に不安定な年齢だ。
女子校という特別な環境下において、一時期の感情の錯覚をしている可能性もある。

けれど、本人にとっては、至って真面目で真剣な問題だろう。

人を好きになる気持ち、人に惹かれる気持ちに嘘はない。
ただ、相手が同性であることで、自分の内側で葛藤があるのだろう。

不安定でありながら、さらに自分で自分を責めてしまうのかもしれない。


「先生・・・。同性の事を好きになる事は、変ですか? 間違っていますか?」

「うーん・・・、難しい問題ね。」

「先生は・・・、先生はどう思うんですか?」

「そうね・・・、一人の教師としては、間違っていると言うかもしれない。」

「そ・・・、そうですよね・・・。」

「でもね、私個人の意見としては、人を好きになる気持ちに、間違った事はないと思う。」

「えっ?」

「私自身ね、この歳になっても、まだ恋とか愛とかって良く分からないの。
 だから、何が正しくて、何が間違っているだなんて、言う資格がないわ。
 でもね、人が人に惹かれる事は、とても自然な事だと思うの。

 たとえば、自分の持っていないものを持っている人に魅力を感じたり、
 同じ趣味や、同じ気持ちを共感できることで、お互いに惹かれ合ったり。

 憧れや魅力を感じる事は、別に悪い事でも、間違ってることでもないわ。
 ごくごく自然なことで、当たり前の事だと思うの。」

「じゃぁ、その人を好きでいても、いいんですか?」

「人が人を想うことを、誰かに止められる権利はないとは思うわ。
 ただ、相手が困ったりするのであれば、考えなければいけない事はあるとは思うけど」

「そう・・・、ですよね・・・。」

「でも、人を好きになるって気持ちは、とても大切な気持ちだと思うわ。
 だから、それをいけない事だとかって、自分を責めないでね。」

「はいっ!!」

「それじゃ、日本史の補習は別にいいわね。」

そう言って、出した資料を片付けようとした時、不意に、高瀬さんに手を掴まれた。

「えっ?」

「先生・・・。」

「どうしたの?」

「私・・・、先生が好きなんです・・・。」

「えっ?!」


「先生を好きでいても、いいですか?」

「高瀬さん・・・。」

「先生の事・・・、ずっと好きだったんです。
 だから、日本史の授業を選択したかったんです。でも、選べなくて。

 迷惑は掛けません。お願いです・・・、一週間に1回だけでいいんです。
 私とここで、会ってもらえませんか?」

「そ・・・、それは・・・。」

「先生、ダメですか?」

「ごめんなさい・・・。それは、できないわ・・・。」

「どうしてですか!? 私じゃ、ダメですか?!」

「あのね・・・、私は教師で、あなたは生徒なの。
 教師と生徒の間で、そういった事はいけないわ・・・。」

「でも・・・、先生、私は先生が好きなんです!!」

そう言うと、高瀬さんは私の胸の飛び込んできて、泣き出した。
人を想う気持ちは、誰だって同じだろう。

高瀬さんは、高瀬さんなりに悩んで、苦しんで来たのだろう。
でも、私は高瀬さんの気持ちに応える訳にはいかない。

別に、同性だからという事で、拒んでいる訳ではない。
私は教師で、高瀬さんは生徒で・・・。

そんな時、脳裏に梨江の顔が浮かぶ。

違う・・・・。

本当の事をいえば、私自身の心の中に、今別の人が住み始めているからだ。
彼女を優しく抱き締める。

「ごめんなさいね・・・。あなたが同性だからとかではないの。
 本当の事を言うとね、生徒と教師だからという理由よりも、
 私には、気になる人がいるの。 だから、高瀬さんの気持ちに応えられない」

高瀬さんは私に縋り付きながら、しばらく泣いていた。


それから、どのくらい過ぎただろう。10分くらいだろうか。
高瀬さんが少し落ち着き、私から離れた。

「先生ごめんなさい・・・、みっともない事しちゃって。」

「いいのよ・・・。」

「先生の好きな人って・・・、この学校の人ですか?」

一瞬、ドキリとするが、梨江ということがばれないように、平静を装う。

「えっと・・・、いいえ、違うわ。」

「そうですか・・・、それじゃ、ダメかな・・・。」

「どうかしたの?」

「てっきり、私、先生の好きな人って、植村先生かと思ったから。」

「ま、まさか・・・、そんなことはないわよ。植村先生は同僚だから。」

「そうですよね・・・。もし、植村先生だったら、私先生を止めたいって思ったから」

「えっ? どうして?」

「先生、さっき、生徒と教師の立場だからって言いましたよね。
 でも、植村先生、生徒と付き合ってますよ。」

一瞬、高瀬さんが何を言ってるのか、意味が分からなかった。

「えっ? な、何を言ってるの? 植村先生が、まさか、そんな事ないわよ。」

「先生、知らないんですか? 植村先生、茶道部の大澤さんと付き合っていますよ。」

「茶道部の大澤さん? そんな訳ないわよ! 植村先生に限って!!」

「先生、じゃぁ、証拠を見せますね。」


そういうと、高瀬さんは、鞄の中からモバイルパソコンを取りだした。

梨江が生徒と付き合っている? そんなハズない。

生徒と付き合いながら、私にもああいう態度を取っているということ?
私は、二股を掛けられているというの?

まさか、そんな事がある訳ない。

ただの噂と取り合わなければ良かったが、高瀬さんの証拠という言葉が気になり
帰るに帰れない。イライラしながら、5分ほど待つと、

「お待たせしました。」

高瀬さんがパソコンの画面を私に向けた。

「これは?」

「私、大澤さんの親友なんです。だから、大澤さんから色々聞いていて。
 大澤さんは植村先生と付き合っているっていうから、色々相談していて。」

「えっ?」

「えっと、今さっきですね、大澤さんから送られてきた映像があります。」

「映像って・・・。」

「大澤さん、植村先生には内緒で、2人の秘め事を録画する事があるんですよ。」

「秘め事って・・・。」

「音声は入っていないから、映像だけですけどね。 ほら、茶道部の部室です。」

薄暗い映像をよく見ると、茶道部の和室みたいな部屋が見える。
その中央に、制服を着た生徒と、梨江の姿が確認できた。

梨江はカメラに向かって背を向けているので、どんな表情をしているか分からない。
女子生徒は時に笑顔だったり、真面目な表情で、梨江と話をしているようだ。

「10分ほどありますから、少し飛ばしてみますね。」


そういうと、ウィンドウのバーみたいなものをスライドさせる。
すると・・・。


「えっ!!」

部室を出ようとする女子生徒の手を掴み、背後から梨江が生徒に抱きつく姿が
映っている。

そして、しばらくすると、梨江が生徒を自分の方に体を向けさせ、
至近距離で向かい合う。

(こ、これって・・・。)

そこで、画像は切れた。

「植村先生って・・・、学校なのに大胆ですよね・・・、って、坂口先生?」

「こ、これは・・・。」

「他の生徒は知りません。私と奏・・・、大澤さんだけの秘密です。
 先生? 顔色が悪いですけど、大丈夫ですか?」

「えっ? えぇ・・・、大丈夫よ・・・。」

「先生・・・、お願いがあるんです。」

「何・・・。」

今見た画像で、頭の中はパニックだった。
呆然としていて、何も考えられない。

そんな時、高瀬さんが思わぬ事を口にしてきた。

「生徒と先生のこんな映像。 学校の裏サイトに流れたら大変ですよね。」

「えっ? な、何のこと?」

「先生、一週間に1度でいいんです、来週も、私と会ってください。」

「高瀬さん!!」

「自分でも卑怯だということは分かっています。でも、お願いです、少しでいいんです。
 一緒に過ごす時間を私にください!!」

「なっ!!」

「私、奏が羨ましいんです。私の事を好きになって下さいとはいいません。
 お願いです!! 少しだけ、1週間で1回だけでいいんです!!」


先ほどの梨江と大澤という生徒の抱擁の画像の事で頭が一杯になっているところに
高瀬さんが取引めいたことを口にしたことで、ますます頭が混乱する。

高瀬さんの私への想いは痛いほど良く分かる。

けれど、私と高瀬さんは教師と生徒。
週1回とはいえ、こんな人目を忍んで会う事は良くないと思う。

けれど、断れば、この画像が裏サイトに流出してしまう。
これが公になれば、梨江は学校をクビになる。

梨江がこの女子生徒と付き合っているということについては、
頭が混乱していて理解出来ない状況だが、この画像をネタに、
今、高瀬さんが私に約束を迫っていることは明白だ。

断れば・・・、梨江は・・・。

「1週間に1度会うっていうけれど、何をするのかしら・・・。」

「ただ、会って、少し話しをしていただければいいんです。ただ、それだけです。」

「わ・・・、分かったわ・・・。 週1回だけよ。」

「ありがとうございます。」

「ごめんなさい、今頭が混乱しているから、今日は帰らせてもらいたいのだけど」

「そうですね。 すみませんでした。
 そうそう、一応、私の携帯の番号とメルアドを連絡しておきます。」

思考能力がほぼ停止しかけている状態で、私は高瀬さんの携帯番号とメルアドを
赤外線で受信し、登録した。

「では先生・・・、また来週。」

「えぇ・・・。」

何も考えられないまま、とりあえず、私は社会科準備室へと戻った。


=END=



「もしもし、奏・・・? えぇ、予定通り進んだわ。」

「そう、千穂ありがとう。 それじゃ、後で。」


(つづく)


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