【 それは突然に 】
<<TOPに戻る

【=2人だけの上映会=】


只今昼休み中――

私こと、坂口早紀は、同僚こと植村梨江とお昼を食べている。

別に、梨江とお昼を食べる事は、いつもの事で
何も特別な事ではないのだけれども、実は、数日前に
ひょんな事というか、突発的な事というか・・・、

同僚である梨江に、キスされるという衝撃の体験をしてしまった訳で・・・。

詳しくは、=シュークリーム編=で把握してください。(私、面倒臭がりなんです)



あの後、梨江はすぐに授業に行っちゃって、私だけ準備室に残されて
しばらくは、もう、何が起きたか頭の中がパニックだったんだけど、
授業終了のチャイムが鳴ったあと、梨江があまりに何事もなかったように
普通に接してきたもんだから、逆にどうしてキスをしたのかを
すっかり聞きそびれてしまって。

しかも、私があんなにも動揺したっていうのに、梨江ってば
あのキスなんて無かったかのように、悔しいくらいに変化なし。

そのうち、気にしている自分が逆に意識しすぎて馬鹿みたいに思えて。
その後は、できるだけあのキスの事を考えないようにしているんだけど・・・。


社会準備室で向かい合わせの机でお昼を食べていると
イヤでも、目の前に梨江の顔が目に入り、知らない間に、梨江の唇に目が行って・・・。

あぁ〜、なんだってこんな意識しちゃってんのよ、あたし・・・(没)

「はぁ〜〜〜・・・。」

「ため息の数だけ、幸せが逃げていくわよ〜〜。」

もう何度目か判らないため息をまた突いたところで、梨江が学食で買ってきた
パンを頬張りながら今朝コンビニで買ってきたと言っていた週刊誌に
視線を落としたまま、声を発した。

ため息の数だけ幸せが逃げるというならば、その原因を作った梨江に
責任を取らせたいところだが、それを言うと、あのキスの事を意識している事がバレ、
逆に、からかわれそうなので、ぐっと言いたいことを飲み込み

「うっさいわねぇー、放っておいて。」

と、一言強がりを言って黙り込む。


「何カリカリしてんの? なんか、最近ヤケに怒りっぽいよねぇー。
 更年期にはまだ早いわよ〜?」

顔を上げずに、何の記事を読んでいるのか知らないけれど、他人事のように
言ってのける梨江の言葉に、さらにイライラしてしまう。

「だ、だれが、更年期よ!! だ、だいたい、だいたい梨江が・・・・」

「あぁーん? なに? 私がどーしたって?」

しまった・・・。
今、もっとで、『もとをただせば、梨江がキスなんてしたからでしょ!』と
口が滑るところだった・・・(汗)

急に視線を雑誌から私の顔に移し、真っ直ぐな瞳で梨江に見つめられて
突然、ギュッと胸が締め付けられた。

な、なにこれ・・・。


「な、なんでもないわよ・・・。」

「なによー、言いかけて辞めるなんて、気持ち悪いじゃないのー。」

「あぁー、もう! 何でもないって言ってるでしょ!!」

「もぉー、ため息は突くは、逆ギレするは・・・、ほんと機嫌悪いわねぇー。
 もしかして、あの日なのかしら?」

「ち、違うわよ!!」

「あぁー、はいはい、そんな機嫌が悪い早紀ちゃんには、ほらこれ!」

「な、なによ!!」

何か子供扱いされたことで、逆にイラついたけれど、突然、梨江がさっきまで
読んでいた雑誌を突きつけられ、何かと思い読んで見る。

「ほら、梨江が見たいって言っていた映画が今度深夜にテレビでやるよ。」

「あっ、ほんと!!」

見せられたそれはテレビの番組表で、公開時見たいと思っていた映画だったけれど、
1月下旬から3月までという大学入試真っ盛りの時期だった事もあって、
すっかり見るタイミングを逃してしまったサスペンス系の映画が今週末の金曜の
1時30分から放映する事が載っていた。


「良かった〜、レンタルで借りようって思っていたけど、なかなかタイミングなくて。
 でも、テレビでやるのは嬉しいけど、テレビだと字幕じゃないし、
 CMとかの分、カットされたりしてるのよねぇ〜。 でもまぁ、文句言えないけど・・・。」

「それじゃ、金曜の夜レンタルで借りてうちで見ようよ。」

「えっ? なんで?」

「なんでって、見たかったんでしょ?」

「そ、そりゃそうだけど。 でも、なんで梨江の部屋で見るの?」

「あれ? 言ってなかったっけ? うち、プロジェクターあるって。」

「うっそ! ほんとに?」

「うん、プロジェクターに、80インチスクリーンあるよ。
 どーせ見るなら、迫力がある方がいいでしょ?
 その映画、私も見たかったけど、観れなかったから、丁度みたいって思ったし」

「いいの?」

「良いもなにも。 2人で見れば、レンタル代も半分になるでしょ?」

別に、レンタル費なんてたかがしれているけれど、80インチスクリーンでの映画鑑賞は魅力的だ。

「行く行く! 梨江の都合が良ければ、観たい!」

「それじゃ、金曜日、学校終わってからご飯を外で食べて、その後にうちで観ようよ。」

「えっ? 別に土曜でもいいんじゃない? 無理に金曜の夜じゃなくても」

「部屋でプロジェクター使う時、昼間だと遮光カーテン使っても、やっぱり
 部屋に光りがうっすら入っちゃうんだよね。 だから、観るなら夜がいいから。
 あっ、でも、土曜の夜でもいいけど。 早紀の都合の良い方でいいよ?」

「そうなんだ・・・、それじゃ、金曜日の夜がいいかな。 でも、本当にいいの?」

「それじゃ、決まり!」

「梨江、ありがと! 楽しみ〜。」

「うん、こっちも楽しみ♪」

「えっ?」

「いやいや、こっちの話♪」

「???」

さっきまで、何でイラついていたのかすっかり忘れて金曜の上映会が楽しみになった。


――キーンコーンカーンコーン♪


「あっ、次の授業の準備しなきゃ。」

「あら、ほんと。早紀は次どこのクラス?」

「私は、3年生。 梨江は?」

「こっちは1年生。 それじゃ、詳細はまた後でね〜。」

「はいはい、また後でね。」


そして、私と梨江は、次のクラスの授業へと向かった。

お昼食べていた間は、あれだけイラついていたのに、
上映会一つで気分がこんなにも変わるなんて私も現金だ。

でも、梨江がプロジェクターを持っているなんて初耳だ。
いつの間に買ったのかしら?

まっいっか。

そして、私は梨江にキスされた事をすっかり気にしなくなり、
金曜日の夜を楽しみに数日を過ごした。



そして、金曜日の夜―――


「あぁー、食べた食べた。 それじゃ、飲み物と軽いつまみを買って行こうか。」

「そうね。梨江のマンションの近くにコンビニってあるんでしょ?」

「あるある。 お酒も割とあるからご心配なく♪」

「お酒はいいわ。酔ってせっかくの映画が判らなくなったら意味ないから。」

「あはは! 早紀はお酒あまり強くないものね。私は少し飲みたいな。」

「どうぞ、ご自由に。あっ、コンビニで買う分は私が払うから。部屋にご招待してもらうお礼にね♪」

「あら、悪いわね。返ってDVDのレンタル代より高くついちゃったかな?」

「うふふ、別にいいわよ。一人でも、きっと飲み食べしながら観ていたから。」

こんなやりとりをしながら、少しのお酒(ビールとカクテルくらい)と少しのつまみを買い
梨江のマンションの部屋へと向かった。

「ささっ、どうぞ、狭いけど。」

「お邪魔しまぁーす。」


梨江の部屋は、2DKでシックな家具で統一されたモデルルームのように
綺麗でおしゃれな部屋だった。

「梨江って・・・、結構凝り性なのね・・・。」

「えっ? どうして?」

「だって、部屋の家具とか、壁紙からカーペットまで、色合いとか気にして揃えてるから。」

「そう? あんまり意識してないんだけどね。あっ、適当にソファーに座ってて。」

「あっ、うん。」


奥の8畳くらいの部屋へ行くと、壁にソファーが2つ並んでいて向かい側の窓側に
聞いていた、80インチのスクリーンが立っていた。

そして、部屋の中央のテーブルに、プロジェクターが置かれていた。

「お待たせ! ほらほら、ソファーに座って。つまみと飲み物は、テーブルに置くね。」

「ありがと。」

2つのソファーのうちの左側に座った。


梨江は、早速ビールを空けながら、プロジェクターにレンタルしてきたDVDをセットし
リモコン片手に、ソファーに座り、部屋の電気を落とし部屋が真っ暗になった。

「はーい、それじゃ、上映会の始まり♪」

真っ暗の部屋にプロジェクターの光が差し込み、本当に映画館のような雰囲気になる。

あれ?

最初は気がつかなかったけれど、ソファーに2人で並んだら、思った以上に梨江が近くに感じる。
というか・・・、えっと・・・、肩が触れている感じが・・・。


そう思っていたら、映画が始まった。

感じた疑問を忘れて、私は映画を見始めた。


今日観ている映画は、ラブサスペンス。

探偵とその恋人が謎の連続殺人事件に巻き込まれ、濡れ衣を着せられ
FBIを敵に回して、謎を解きながら無実を晴らすというものだ。

ハラハラドキドキ、それでいて、追いつめられるほど
主人公の探偵と恋人の女性の恋はどんどん燃え上がる。

そして、自分たちが濡れ衣を着せられた経由を推理し
黒幕がだれなのか、逃げながら証拠を少しずつ集めて行く。

そして、いよいよ確信に!と思ったその時・・・


えっ?? 

な、なに?

急に手が・・・、ひ、左手が・・・

左手が暖かい感触が?・・・って、えぇー?

て、手が・・・、梨江? り、梨江の手が私の手に触れてる?!

ちょ、ちょっと!!

最初、優しく触れていたその手が、徐々に私の手を包み、
そのうち、指を絡めて握って来た・・・。

ちょ、ま、まっ、まってって、な、なに!? 

焦って、映画どころじゃなくなって、梨江へ視線を移そうとした時


―― ズーン

えっ?!

急に、自分の左肩がずしっと重くなった。

は、はぁ???

視線を自分の肩に戻すと、そこには梨江のドアップな顔が!!

えぇーーーーーっ!!

り、梨江!!

梨江が私の肩に頭を寄せてきた。

ちょ、ちょっ、ちょっと!!

ちょっと、り、梨江ーーーーー!!

プロジェクタの薄暗い光の中にうっすらと浮かぶ梨江の顔が眼前に!

梨江の瞳は閉じられていて、自分の視界に梨江の唇が近づいてきて・・・

これって、ま、まさか・・・・


き、き、キスされる!?


ま、まっ、まって!!  ちょ、ちょっと、梨江!!

「まっ・・・・」

思わず、声を上げようとしたそのとき、


―――― スーーーーっ、スーーーーっ

えっ? はぁっ?


ね、寝息??

って、ことは・・・、えぇーーー?? 梨江、寝ちゃったの??


どうやら、梨江はお酒が入ったことで眠くなって寝てしまったようだ。



な、なんなのよ!! 一体!!!


一瞬で顔に上った血が、とりあえず沸騰しないで済んでよかったぁー。

で、でも・・・、どうしよう??

梨江にキスされるっていう事態から免れたものの、今のこの状況、
決してあまりいい状態ではない訳で。

左手は梨江にしっかり指まで絡まれ握られていて、
左肩には、梨江の頭がずっしり乗っかっている。

それだけならいい・・・、


――― スーーーーーっ、スーーーーーっ。

静かに寝入っている梨江の呼吸が耳元に丁度当たって、
なんていうか、耳がくすぐったいというか、ドキドキするっていうか・・・。

もう、どーしろってぇーのよ!!

耳元に当たる寝息というか、吐息から逃げようと耳を後ろに下げると
まともに、梨江の寝顔が視界に入ってしまう。

プロジェクターでは、映画がそのまま進行していて、クライマックスに入っている。
けれど、字幕なんて目に入らないし、どんなに激しいアクションシーンが展開されていても
今目の前にある梨江の寝顔から視線が反らせない・・・。

梨江の寝顔は、やっぱり整っていて、視線は自然と唇に向かって。

あぁー、この唇と、この間キスしたんだ・・・。

そう思ったら、頭の中がぼーっとして。

どのくらいの時間、ずっとそうしていたか判らないけれど、
漠然と、映画の音声が静かになった気がして、少しだけスクリーンに
視線を戻したら、ラストシーンだったらしく、
主人公と、その恋人が熱い包容を交わし、そして、唇が近づき、熱いキスシーンが・・・。

私の視線は、スクリーンのキスシーンから、次第に、梨江の唇に・・・。

BGMにはラブシーンに相応しい、ムードたっぷりな音楽が流れ、
暗い部屋には、私と梨江の2人だけしかいなくて、
左手には、梨江のぬくもりがあって、
目の前の梨江の横顔は、プロジェクタの淡い光に、うっすら浮かび上がっている。

その淡い光の中の綺麗な唇に引き寄せられるように、自分の顔を寄せて、

そして・・・・


「う・・・・、うぅん・・・・・。」

はっ!!

な、なに?! わ、私、今何をし、しようとしていたの!!

慌てて、近づけた顔を離し、その勢いで、握られていた手をふりほどいた。


「うぅ・・・・ん・・・、あれ? 私、寝ちゃってた?」

あ、危なかった・・・。

「そ、そうだよ!! 梨江、寝ちゃってたんだよ!! ほら、映画終わっちゃったよ!」

何事もなかったように取り繕い、慌ててスクリーンに視線を戻す。

「そーなんだぁー。 で、結局誰が黒幕だったの?」

「えっ?? ああーっ、えぇーっと・・・。」

途中から梨江に見とれて、全然映画観てなかった・・・(汗)

ど、ど、どうしよう・・・・。

「あれ? 早紀映画みてなかったのぉー?」

「あぁー、えーっと・・・、そうなんだよねぇー、私も途中、うとうとしちゃって、アハハ・・・。」

とりあえず、梨江と同じく寝ちゃったという事にしてしまえ。

「あららぁー、それじゃ、借りてみた意味ないじゃなーい、アハハ!」

「そ、そうだね! アハハ!」

体中にイヤな冷や汗が流れながら、空笑いをしてどうにかごまかした。

「じゃぁ、途中からもう一回観る?」

「えっ? い、いや、もういいや・・・、ま、また眠くなると、アレだし・・・」

「えぇー、それじゃ、もったいないじゃん。途中から観ようよ。」

「えぇーっと、ほら、今から観ると、遅くなっちゃうし、帰れなくなるから、ねっ?」

そういって逃げるように、時計をみたら、もう23:30。

「それなら、今日、うちに泊まれば? どーせ明日休みだし。」

「えっ? えぇーーー?? いや、それは、ほら、梨江に悪いし・・・。」

「ん? うちは大丈夫よー。それに、もう遅いし。いいじゃん、泊まれば、ねっ?」

「いや、ほら、何も用意してこなかったし、急だしね? やっぱり、帰るって・・・。」

「大丈夫。スウェットかあるし、下着も未使用のがあるから、それあげるし。ねっ?」

「で、でも・・・。」

「ってことで、決まり♪ ってなことで、さぁー、もう一回観よう♪
 今度は寝ないように、飲むのはコーヒーにして、あっ、早紀もコーヒー飲む?」

部屋の電気を付け、無邪気にコーヒーの準備をし出した梨江に、
やっぱり帰ると言えなくなってしまった・・・。

ど、どうしよう・・・。


そして、もう一度梨江が覚えていないシーンから映画を観直すことに・・・。

けれど、見直したシーンの時、脳裏にはそのとき目の前に迫った梨江の唇が浮かび
頭に血が上って、2度目の映画を観ても内容が頭の中にさっぱり入って来なかった。

そして、時計は1:00になり、終電も無くなってしまい、いよいよ泊まるしかなくなった。

「はぁ〜・・・。」

「んー、なんか期待していたよりも、つまんなかったね。 まっ、こんなもんか」

「そ、そうだねぇ・・・。」

「ところで、今からシャワー浴びるでしょ? ちょっと待っててね、準備してくるから。」

「あっ、えっと・・・、あ、ありがとう・・・。」

「あっ、そうそう!」

「えっ? なに?」

「うち、誰か泊まるのとか初めてだから、客布団とか無いの。 一緒のベッドでいいよね?」

「えっ? えぇーーー???」

「別に、いいじゃない。 女同士なんだから♪」

そういいながら、浴室へ向かった梨江。


どっ、どっ・・・・、ど、どうしよう・・・・。

わ、わ、わたし・・・、だ、大丈夫なの・・・??





―――――― カチャン

浴槽のドアを閉め、シャワーで浴室を軽く洗いながら、梨江はほくそ笑む。

うふふ・・・、まさか、こんなにうまく行くなんてねぇ。
無理して、プロジェクター買っておいて良かったぁー。

さっき、もうちょっと待っていたら、早紀の方からキスしてくれたのかしら?
でも、その後動揺して、もう帰る!って言われたら困るところだったし、まぁ、いいでしょう。

それに、夜はこれからだし・・・、ねぇ?

そうそう、ベッドでも、早紀には左側になってもらわないとね。
相手を口説くには、心臓に近い、左耳に吐息を掛けるか、囁くといいって言うし。

うふふ〜〜〜。

さぁ、今夜が楽しみ♪




全て、梨江の計画通りに進んでいることを、早紀はまだ知らない・・・。

がんばれ早紀! 夜は長いぞ!


次回、=初めてのお泊まり=です。 こうご期待?!(つづきます)

次のページへ>>