【 美女と普通 】
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=第2話:美女との取引=



ん、ん・・・・。

「んー、ん? ここは?」

目が覚めた。

目が覚めたものの、今何が何なのか、さっぱり解らない。

えぇーっと?

まだ覚めない思考を動かす為に、周りを見渡す。
見覚えのないどこかの教室らしい。

うっすらと、少し消毒のような臭いがある事に気付く。

そして──

あっ、ベッドに寝てるんだ。

自分がベッドに横になっていることに気付いた。

学校内でベッドがあって、消毒の臭いがする、自分の見覚えのない教室。

──ピンポーン! ここは、保健室!

やっと頭が働きだしたのか、的確な答えが頭に浮かんだ。

でも、どうして、保健室に寝ている??


ベッドの中で、体を動かしてみると、すこし違和感があるものの
別にどこも怪我も、痛みもない。

ゆっくりと体をおこし、ベッドから降りようとしたその時、保健室の扉が開いた。

「あっ、泉! 目が覚めた?」

入ってきたのは陽子。

「ん、今起きた所。」

「気分はどう? 先生は、気を失ってるだけだって言っていたけど。」

「うん、気分も体も平気みたい。 でも、どうして私はここに?」

「えっ? 泉覚えてないの?」

「なにが?」

「放課後、突然教室に泉が走り込んできて、そのまま倒れたの。」

放課後? 突然走り込んで? 倒れた??

──はて? 走るような事していたかな?

放課後の記憶を辿ってみると・・・

「あぁぁぁっ!!!」

「い、泉??」

──思い出した!!

そう、思い出した。

放課後に、朝入っていた謎の田代先輩からの手紙を返そうと、生徒会室に行った事。

そこで、田代先輩と初めて対面して、手紙の間違いを説明して。
そして、それで終わるはずだった。

けれど・・・

脳裏に、田代先輩の言葉が甦る。


──別に間違ってないわよ。

──聞こえなかった? 間違ってないって言ったのよ。
   その手紙は、間違いなく、あなたに宛てたのよ、 笠井 泉さん?

──笠井さん、お話があるの。

そうだ、手紙は間違いなく私宛で、その後先輩は話があると言って。
けれど、何か嫌な予感がして、生徒会室から逃げようとした時、


──あなたが 好きです。


ボンッ!と頭が破裂する音が聞こえた。

「泉?? ど、どうしたの? 顔真っ赤だよ!! 熱でも出た??」

顔中が熱い。 熱い〜!!

「あっ、い、いや、だ、だいじょうぶ。 大丈夫だから。」

必死に、何でもないような素振りで、陽子に気付かれないようにする。

そうだ、あの時、間違いなく先輩に告白された。
(その時、ついでに抱き締められたと思う)

そうだ、”好き”だと言われたんだ。

でも、どうして??

「泉?? 泉ってばぁー??」

「あっ、ごめん。」

自分の世界に入り込んでいた時、陽子が心配そうな顔をしていることに気付いた。
そうだ、あれから更にキスされそうになって、慌てて逃げ出して、
そして、必死に走って教室に帰ってきたんだ。

普段滅多にしない全力疾走のおかげで、酸欠?になって
意識朦朧で、丁度教室にいた陽子に向かって倒れ込んだ、って所だろうか。

「泉、一体何があったの? 本当にびっくりしたんだから。
 丁度、体育の工藤先生が廊下を通りかかって、泉を背負って保健室に
 運んでくれたんだよ。 みんなびっくりして、大騒ぎになったんだから。」

「あぁ、そうだよね。 ごめん、あとで先生にも謝っておく。」

「そうじゃなくてぇー!! 何があったのかって聞いてるの!!」

「あっ、あぁ〜、えぇーっと、んとね、何があったって訳じゃなくて、
 んーと、あっ、そうそう、廊下歩いていたら、ゴキブリが飛んで来て。
 ギャァー!!って、驚いてさ。 ほら、ゴキブリだよ? ゴキブリ!!
 そんで、ダッシュして教室に走り込んだら、多分酸欠になっちゃったんだと思う! そうだ、多分そう!!」

「はぁっ? そ、そうなの??」

拍子抜けな顔をしている陽子。
自分でも、かなり強引なこじつけだとは思うけれど、
どうしても、さっき生徒会室であった出来事は、話せない。

別に、何か疚しい事をした訳ではないと思うけれど
でも、相手があの、学校1の有名人の田代先輩。(今日初めて知ったけど)

自分は、その気がなくとも、告白された、なーんて口にしたらば、
何が起きるか、っていうか、陽子に何を勘ぐられるか解ったもんじゃない。
(何を言っても、何か特別な関係じゃないかと疑われる可能性がある!)

「う、うん、ごめんね、なんか心配かけちゃって。」

「まったくぅ〜、もう、変な心配かけさせないでよ!! ったくぅ〜!!」

「ごめん! ほんとゴメンね!!」

「でも、本当に大丈夫なの? 頭が痛いとか、気持ちが悪いとかない?」

「うん、ないない! これからは、運動不足に気をつけます!」

「はいはい。 それじゃ、あとで工藤先生にお礼を言っておいてね。」

「うん。 今から行ってくる。 陽子は先帰ってて。 ありがとう。」

「ほいほい、それじゃね。」

手を振り、保健室の前で陽子と別れた。

それから、体育の工藤先生にお礼と謝罪を言いに行くと、
陽子と同じ質問をされたので、同じ言い訳で答えてその場を後にした。

まったく、ひどい1日だ。
とんだ大騒ぎを起こしてしまったし、そのそもその原因は、朝の手紙が原因だし。

でもって、その全ての元凶は、あの田代先輩。

一体なんだって、こんな事に・・・、はぁ〜。

教室に戻り、自分の鞄を持って学校を出ようと下駄箱に向かう。

──そして、いつものように、下駄箱を開けると



でぇーーーー!!

ま、また、見たことがある色の封筒が!!




嫌な予感が背筋を一気に凍らせる。

考えるまでもなく、これは・・・、この薄い青色の封筒は・・・、

今朝入っていた物と同じ!!!

ってことは、差出人は、同一人物?!

震える手で、封筒を手にする。

見たくない──

でも、中に何が書いてあるか解らない。

差出人が、田代先輩と解った以上、
田代先輩が、自分に告白してきた以上

これ以上関わりたくない!!

そのまま読まないで、ブレザーのポケットに突っ込んで、
さっき、倒れた事など考えもせず、走って学校を飛び出した。

駅で、また意識が朦朧としたけれど、とりあえず頑張った。



家についてから、その封筒を取り出し、机の上に置く。
椅子に座り、腕を組んでその封筒をじっとにらむ。

何が書いてある?

改めて、告白文が書いてあるのか??

それとも、逃げたした事への文句か?

いや、あの時は仕方がない。 キスされそうになったんだし。

それじゃ、この封筒は開けないで、そのまま放置?

でも、キスしようとした事の詫びが書いてあるかも?

謝罪が書いてあるのならば、読まないと失礼?

でも、逆に、また呼び出されるような文面だったら??



えぇーい!! 気にしても仕方がない!



読まないことには、今夜眠れそうにないから、とりあえず読むぞっ!

固い決意と共に、思い切って封筒を開ける。

今朝と同じ、薄い青い便箋が一枚4つ折りに入っている。

そっと、開く。 すると────




=============================================

笠井 泉様

先ほどは、少ししかお話ができなかったので、
私が話したかった事を伝えられませんでした。

改めてお話があります。

会って話ができないなら、私の携帯に電話を下さい。

080-XXXX-XXXX

                        田代 静香

=============================================



でぇーーーっ!!



た、田代先輩の携帯の番号?!

ってか、書き方は優しいが、言い換えれば、



── 話がちゃんと出来なかったじゃないの!
    面合わせたくないなら、電話しなさい!!



っていう、いわゆる命令系? 脅しか?

というか、話しっていうのは、あの告白の事じゃないの?

他にもある話って、一体なんの事??


考えれば考えるほど、この田代先輩という人を理解できない。

まぁ、あんな有名人なのに、自分に告白してきたという事自体が、
自分からしてみれば、理解不能。

でも、これ、どうしよう・・・。

電話しなかったら、また、明日の朝、封筒が入っているんじゃないかと思ってしまう。

あぁ、もう!!




──でも、まてよ?



ここで、電話で話しっていうものを聞いた方が、また呼び出されるより良くないか?

呼び出されて、また迫られたりした方が、よっぽど怖い。

それなら、電話で、田代先輩の言いたかったことを言わせてしまい、
それで、終わらせてしまえばいいんじゃないのか?

うん、その方がいい! そうしよう♪



という事で、とりあえず、電話をする心づもりはできたけれど、
先輩が言っている、”話し”というものが、何のことかが、気になる。

電話で、全てを決着させようと言うならば、有る程度話の内容を、想像しておかなければ。



── では、一体どんな内容の話しか?


1)好きです。 あなたの気持ちを教えてください。

2)好きです。 だから、つき合ってください。

3)好きです。 だから、今度デートしてください。



んー、どう考えても、あの生徒会室で言われた事の延長戦の事しか思いつかない。
そりゃ、そうだよなぁ〜。 他に、なんの話があるっていうんだ?

まぁ、とりあえず、そういう事である事を前提にしたらば、答えは?



1)の答え → すみません。 ごめんなさい。

2)の答え → すみません。 ごめんなさい。

3)の答え → すみません。 ごめんなさい。


うぅーん、どれも、同じ答えになるなぁ。 まぁ、しょうがないよね。

だって、先輩の事、今までまったく知らなかったし。

確かに、今日初めて会って、陽子の言っていた通り、
ものすごい、美人な人だととは思った。

たとえ、いくらものすごい美人であったとしても、自分は興味がない。

── うわぁ〜、すごい美人♪

以上終了!

ってな感じなので、誰もが見とれる美女であっても、同性である、まぎれもない女性。

よって、告白されたところで、やはり、はい?という感じで理解できない。

確かに、自分は今まで、恋愛をしたことはないけれど(高2にもなって)
初恋は、間違いなく男の子なのだ。(小学生の時だけど)

という訳で、絶世の美女に告白されても、答えは、ごめんなさい。


そいじゃ、そういう事で電話でもしますかね。




家電からは掛けられないので、仕方なく自分の携帯から
便箋に書かれている携帯に電話をする。

呼び出しコールが響いている間、何故だか先ほどの生徒会室での出来事を
思い出し、少しドキドキしていた。



── もしもし?

── も、もしもし、か、笠井です。

── あら、ちゃんと電話してくれたのね? ありがとう。
    そういえば、保健室に運ばれたそうだけど?


なんで、知ってるんだ?


── あっ、えっと、はい、大丈夫です。

── そう、無理をしてはだめよ?


誰が原因だと思っているんだ?!


── は、はい・・・。 あっ、えっと、それで・・・

── なに?

── お話があるってことですが・・・

── あら、もう本題に入るの?
    もう少し、あなたの声が聞きたいのだけど?


なんなんだ? この人は!!


── 用件がないのであれば、失礼します!

── うふふ。 冗談が解らない人なのね?


あなたの言ってることが、冗談なのかなんなのか解らないからです!!


── それで、話しっていうのは?

── せっかちなのね? 仕方ないわ。

    えっと、さっき、生徒会室での続き。
    あの時、私の気持ちは伝えたわよね?



あぁ〜、やっぱりそう来たか。


── は、はい・・・。

── あのね?

── はい。

── これから、私のことを知って欲しいの。


さぁ、断るぞ!と・・・、

はい? 知って欲しい?


── はぁ?

── 私も、あなたの事をもっと知りたい。
    だけど、あなたにも、私のことを知って欲しいの。

── あぁー、えぇーっと・・・。

── 私の気持ちを伝えて、その返事は?と、今あなたに聞くと、
    きっと、”No!”ではなくて?


はっ! ば、ばれてる?!


── はっ! あっ・・・、えっと・・・。

── ウフフ。 解りやすい人ね?
    でも、いきなり断るっていうのは、失礼だと思わない?

── はぁ?

── あなたの答えが、”No!”という理由を推理してもいい?

── はぁ。

── 私が、”女”だから。 違う?

── そ、それは・・・。



読まれてる・・・。っていうか、それは仕方がない事じゃないの?



── あなたは、私とあなたが同性という事の前に、私を知ろうとはしない。

    私の事を知った上で、断るというのなら、納得できるわ。
    でも、ただ、私が女だからという理由なら、私は退かない。


── で、でも、私は、そういう趣味は・・・

── 趣味とかじゃないわ。 あなたは性別という偏見で、人を判断するの?
    それだけで、私の全てを否定する?

── そ、そういう訳じゃ・・・。

── 断る理由が、私たちが同性という事だけなら、それは認めない。
    そんな事をするなら、私にだって、考えがあるから。

── はぁー?? 一体何を??

── これでも、少しは自分は学校では慕われていると自覚はあるわ。
    肝心のあながた、私を知らなかった事には驚いたけど。

── それが何か?

── あなたが、同性だからという理由で、断るなら
    校内放送を使って、あなたに振られたことを告白するわ。

── はぁーーー???

── 私に想いを寄せてる人はどう思うかしらねぇ?
    私のファンも、下級生には多いと思うから、あなたどうなるかしら?

── でぇーーーーっ! な、なんでそんなことを!!

── だから、これから、一つの取引を提案するわ。 どう?

── どう?といわれても、なんですか? それ。


── 取引内容はたった1つ。
    私のことを知る機会が欲しいの。 もちろん期限付きで。

    2月のバレンタインデーまでの3ヶ月間でいいわ。
    その間、できるだけ私と会う時間、話す時間を作って欲しいの。


3ヶ月間?? バレンタインデー?? 何を言ってるんだ? この人は。
できるだけ会う時間、話す時間を作る? なぜ?


── あの、意味が分からないんですけど。

── もうすぐ、私は生徒会を引退するわ。 今月の生徒総会で引き継ぎ。
    だから、放課後、家に帰る前の1時間でいいから、一緒に居て欲しいの。

── 会って、それで何をするんですか?

── そうね、話をしたり、お茶を飲んだり。
    3ヶ月の間に、お互いにお互いの事を知りたいし、知って欲しいの。

── あぁー、あのー。

── なに?

── どうして、私の事を?

── ん? 私が笠井さんを好きになった理由(ワケ)?
    そうね、それも、追々話しをするっていうのではどう?

── あぁー、えぇーっと。

── 3ヶ月の間、つき合って欲しい訳じゃないの。
    その期間は、まず友達として、お互いを知るという意味では、どうかしら?


んー・・・。 参った、困ったなぁ〜。
この電話で全てを終わらそうと思ったのに、逆にこれから、関わらなきゃいけない感じに。

でも、断ると、それこそ、この人何するか解らない。
さっき、口走っていた校内放送の件も、この強引さから言うと、やりかねない気がする。


── あ、あのー。

── なに?

── 本当に、友達付き合いでいいんですか?

── えぇ、もちろん。

── きょ、今日みたいな事、しないですか?

── 今日みたいな事? あぁ、抱き締めて、キスしようとした事?

── は、はい!!

── それは、約束できないわねぇ〜♪

── えぇーーー!!

── だって、私はあなたの事が好きなのよ?
    一緒にいたら、想いが抑えられなくなる事もあるわ♪

── な、な、なにを!!

── まぁ、でも、そうねぇー。 友達付き合いからという事なら、
    できるだけ、努力はするわ。 それでどうかしら?

努力って・・・、どの程度の努力なんだっ?!
し、しかし、これでは、断れる理由が見つからない・・・。

── し、しかし・・・。

── しかしも、でもも、もう聞かないわよ。
    聞きたい返事は、YesかNoか。 笠井さん、どうなの?


怖い・・・。 電話でも、会っている時の圧力がそのままだ。
でも、断ったら・・・、しかし・・・、うぅっ・・・。

あっ、そうだ!


── あぁー、えぇーっと、先輩、一つだけいいですか?

── なに?

── その3ヶ月の間に、もし、私に好きな人が出来たらどうなりますか?

── あら、そうねぇ〜。 その場合は・・・

── その場合は??

── その時は、潔く身を退くわ。
    私と一緒にいながら、別の人に惹かれるのであれば、
    私には魅力を感じないという事だし、私にない物をあなたが望むという事だから。


ホッ、良かった。 とりあえず、逃げ道はある。


── 解りました。 それなら、その条件でいいです。

── いいのね?

── はい。

── ありがとう。 それじゃ、明日、また放課後生徒会室で待っているから。

── はぁ? あの、もうすぐ引退されるのでは?

── まだ引退はしないわ。 するのは2週間後よ♪


この人、本当に掴めない・・・。 こんなんで、これからの3ヶ月間、
本当に大丈夫なのか??


── 解った? 明日、生徒会室よ?

── あぁー、はい。

── それじゃ、またね♪


という訳で、先輩の勢いに押されながら、先輩と3ヶ月限定のお友達というが
実施される事になってしまった。

でも、しょうがないよね。 なにされるか、解らなかったし。(今思い出してもゾっとする)



という訳で、奇妙な3ヶ月が、明日から始まることになった。







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