【 美女と普通 】
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=第3話:望む者、望まれる者=


昨日は眠れなかった。

田代先輩に掛けた電話で、ケリをつけるはずが、何故だか全て先輩のペースで話が進み、
3ヶ月期間限定のお友達付き合いをする事に。


先輩からの告白を、自分はもちろん断ろうとしていた。

理由は、いうまでもなく、自分は同性の先輩を恋愛対象として見るつもりなど、初めからないという事。


しかし、先輩は、性別を理由にされる事に、納得がいかないらしい。
先輩の事を、知ろうともしないうちに、同性だからと、初めから断る事が、気にくわないとの事。



そりゃ、昨日初めて先輩の事を知った訳だし、(昨日初めて名前と顔を知ったくらいなのだから)
その人の何を解っているのか?と言われれば、答えられるはずもなく。

かといって、同性というだけで、先輩の存在そのものを否定する事なんて出来ない。


何も知らないのに、同性っていう事だけで断るのは、偏見だ!
と言われれば、どこか、自分が悪いような気になってしまう。



結果、お試し期間という事で、これからの3ヶ月間、お友達(から?)という事になった。



その時は、思わず、同調したけれど、
今考えると、同性からの告白を受け止められない事は仕方ない事じゃないか?とも思えてくる。

なにせ、自分の中では、同性とつき合うなんて事を考えた事もないのだから。
否定をしている訳じゃない。 ただ、そんな事を考えたことがないだけ。

でも、そんな事を口にだしてみたら、おそらく、


── なら、私で試してみればいいじゃない!


と言われるに決まっている。(間違い無い)

やぶ蛇に成りかねないので、絶対に口にはしない。


そんなこんなの流れで、
しばらくの間、放課後に生徒会室へ通う事と・・・、はぁ〜〜〜。



昨夜から、ぐるぐると、こうなった経由を考えていたらば、当然眠れず。

今朝も、学校へ行く道すがら、ずっと気になってしまっている。

参ったなぁ〜。


イカンイカン! 変に意識すると、余計変な事になりそうなので
これ以上は、難しく考えないようにしよう。

これからの3ヶ月は、期限付きのお友達って事で割り切らなきゃ!



不安を抱えながら、自分の胸の内をどうにか落ち着かせようと
普通を装って、いつもと同じように、学校の門を通り過ぎる。


そもそもは、昨日の朝、下駄箱に手紙が入っていた事から始まったんだよな〜、まったく・・・。

そう思い返しながら、無意識に下駄箱から上履きに手を伸ばした時、


カサッ


── っ!!

なにやら、不吉な手触りが・・・((汗))


ま、まさか・・・、いや、そんなはずは・・・。

背筋に冷たい汗が流れる。

恐る恐る、そっと、手に取ってみる。


── ☆@*%¢ゞ♀♂℃!!!!


ど、どうして?? どうして、今朝も手紙が入ってる??


おかしい!?

昨日の手紙は、田代先輩からの物で、
その件については、電話で話をしたはず。


それじゃ、こ、これは・・・??って、 ん??


あれ? 昨日の封筒とは色が違う?


手に取った封筒は、薄い緑の封筒。

ん???

昨日の封筒は、薄い青の封筒、今日は、薄い緑の封筒?

田代先輩からの手紙ではない??


でも、どっちにしても、やはり、下駄箱に入れられている手紙は、本能的にただ事ではない気がする。

夏でもないのに、また嫌な汗が背中を伝うのが解る。



── おはよぉ~!!

  ── おはよぉ~!!



背後から、他の登校してきた生徒の声が聞こえてくる。

このまま、下駄箱の前に佇むわけにもいかず、
昨日と同じで、封筒をポケットに突っ込んで、教室へと向かった。






これは、デシャブ? いや違う。

ただ、昨日と同じ事が、今朝も起きただけ。
そう、ただ、それだけのこと・・・。

ちがぁぁぁぁーーーう!!

なんで、今朝もまた封筒が入ってる?!

ポケットから出してみて、改めて、昨日とは違う封筒であることが解る。

色だけじゃない。

何が違うかっていうと、今朝の封筒には、宛名がきちっと書いてある。


” 笠井 泉様 ”


昨日の田代先輩からの手紙の中に書いてあった字とは
見た目からして、筆跡が違うことが解る。

昨日の田代先輩の字は、綺麗+どこか可愛らしい字。
でも、この封筒の筆跡は、見るからに達筆な硬筆展の見本のような字。

いっそのこと、田代先輩からの手紙だったら、
あまり難しく考えなくて済んだのかと思うと、がっくりする。

やはり、考えたくないけれど、別人からの手紙と判断するべきだろう。


はぁ~・・・・。

知らず知らず、また、深い溜息が零れる。


「おっはよぉ〜!!って、あれ? 泉どうしたの??」

今日は、頭を叩かれなかったなぁ〜と思いつつ、陽子の問いかけには答えられずにいた。


「んーー?? あれ?? これって、また手紙??」

「んーーー。」

「泉? ねぇ、そうなんでしょ? ねぇ??」

「んーーー。」

「んーーーー、じゃないでしょ! 泉!!」

「んーーーー。」

「泉!!」

「うぅっっ、く、苦しぃ・・・、わ、わかった・・・、 く、苦しい!!」

陽子の胸ぐらを掴まれ、息が切れそうになり、陽子の腕を掴んでギブアップをアピールする。

「もう、最初からちゃんと返事してよっ! まったく・・・。」

「ぅっ・・・、はぁっ・・・、はぁ、はぁ・・・。  わ、解ったって・・・、もう、苦しいって・・・」

「で、これ、なに?」

「・・・。  見ればわかるでしょ・・・。 封筒。」

「泉、もう一度首締められたい?」

「あっ、いや、その・・・。 知らないけど、また今朝入ってたの。」

「田代先輩から?」

「た、多分違うと思う・・・。 まだ、開けてないけど。」

「ふぅ〜ん。 そうなんだ。 んじゃ、開けよ?」

「ぅ、うん・・・。」


陽子に睨まれ、渋々封筒を開ける。

封筒の中には、白い便箋が1枚入っていた。


カサカサッ──


えぇーっと・・・。


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 田代 静香の事で話があります。

  今日、昼休み12:50に、図書室で。


                      3年D組  秋永 不由美

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うぅーーーん・・・。

昨日に引き続き、 この人誰??

全く心当たりがない。 でも、文面には田代先輩の事が・・・。
3年ってことは、田代先輩と同学年だなぁ。


面倒だなぁ、また先輩だから、見なかった事にしたら呼び出されるかなぁ。

っていうか、どうしてこの人も、私の名前を知っているんだ??
しかも、私が田代先輩とコンタクトを取った事を知っているかのような
タイミングでのこの手紙。


この手紙の意味は何??



「ねぇ、陽子。 この秋永って人知って・・・、  ん?? 陽子??」

「えっ? な、なに??」

ん?? あれ? 陽子の態度がおかしい。
昨日の田代先輩からの手紙の時と、陽子の反応が違う。

差出人を見た途端??


「陽子、 この人知ってる?」

「あっ、そ、そりゃ知ってるよ。 やっだー、また、泉知らないの?」

「うん・・・。 この人誰?」

「秋永先輩は、バスケ部の部長。知らない? 有名だよ?」

「あのさ、生徒会長を知らない私が知るはずないじゃない。
 ってか、どうしてバスケ部の部長が、何で田代先輩の事で私に話があるの?」

「そ、そんなの知らないよ・・・。
 で、でも、田代先輩と秋永先輩は、一番親しいから・・・、じゃない?」

「ん?? 秋永先輩は、田代先輩の友達ってこと?」

「うん・・・、友達っていうか、親友。 幼なじみらしいよ?」

「あっそっ。 幼なじみね・・・。」

「うん。」

「で、陽子、どうして秋永先輩の名前見て、固まったの?」

「えっ? そ、そんなことないよ。 ただ、びっくりしただけ。」

「何が? 何に驚いたの?」

「だから・・・、ほら、2日連続で、泉が先輩から手紙を貰ったりするから。」

「昨日は、田代先輩からの手紙で、驚いた割には、かなり、私に突っ込んでたよね。
 なんで、今日はそんなに大人しくなっちゃう訳??」

「な、なんでもないよ!!」

「ふぅ〜ん・・・、私に隠し事するんだ、陽子は。」

「なっ、ち、違うよ!! 泉に隠し事してる訳じゃないよ!!」

「んじゃ、どういうことよ!! はっきり、言いなさ・・・」

── キーンコーンカーンコーン♪

「ほ、ほらっ! 泉、チャイム鳴ったから、またあとでね♪」


陽子は、その場を濁して、離れた席に戻ってしまった。

やっぱりおかしい。

陽子の様子が間違いなくおかしい・・・。


手紙に、秋永先輩の名前が書いてあった事で驚いた?

もしくは、秋永先輩の何かを知っているか?


どちらにしても、何か隠しているような?
何を隠しているのか、是非とも聞き出さねば。

その後、授業の合間の休み時間に、話を切り出そうとするたびに、陽子はわざとらしく話を逸らそうとする。


陽子のその余所余所しい態度は、秋永先輩の事で、何か隠しているという私の直感を確信に変わった。

でも、結局昼休み前までの休み時間はゆっくり話しをすることが出来なかった。


そして、昼休み。
いつものように、陽子と学食へ向かった。

「陽子、何食べる?」

「うん。」

「陽子?」

「うん・・・。」

「陽子ってば!?」

「あっ、ごめん、ごめん。 なに?」

「陽子、どうしたの?? 朝からなんか変だよ?」

「何でもないよ。」


そういう陽子の態度は、余計に怪しさを浮き彫りにさせる。

「はぁ~・・・。 陽子、今更隠し事は無しだよ・・・。」

「ん。」

「ゆっくり話ししたいけど、食べたら秋永先輩に会いかなくちゃいけないから。」

「うん・・・。」

「ほんと、解ってる?」

「うん、解ってる。 ごめん、時間ないから、とりあえず食べよう。」

そう言うと、陽子に手を引かれ、とりあえず日替わり定食を食べた。


「あとで、ちゃんと話すから。」

おかずの唐揚げを頬張っていた時、陽子がぼそっと呟いた。

「ん。」

陽子の一言がとても重く感じて、それ以上何も聞けなかった。

そして、2人で食べ終わった後、無言で手を振り、お互いに行動を別にした。




さてさて、今度の先輩は一体何の話なんだか。

12:45、食堂を出て図書室へ向かった。



んーーーー。

図書室といっても、どこで待てばいいんだろう?

とりあえず中に入ると、昼休みだというのに
人の数は意外とまばらだった。


読書用のテーブルにいる人を遠目で見ても、
顔も知らない先輩が解るはずもなく、とりあえず、入り口に一番近い
テーブルの窓際に座ってみた。


暖かい日差しが背中に当たり、心地よくなり眠くなってきた。


うとうと・・・と、し出したその時、肩を軽く叩かれた。

「ごめんね、遅くなって。」

「ぅん・・・、 えっ?? 」

慌てて顔を上げると、そこには、スラッと長身の人が立っていた。

「わざわざ呼び出してごめんね。」

「あっ、えっと・・・。 秋永先輩?ですか??」

見上げたその人は、髪の毛は短く、色白でとても笑顔が眩しく見えた。

「うん。 あっ、えっと、ごめん。 ちょっと場所を変えていい?」

「えっ? あっ、はい。 構いませんが。」

「んじゃ、こっち。」

初めて会った、その人にいきなり手を握られて引っ張られた。

「えっ? えぇーーー??」

訳が分からないまま、いきなり図書室の隣りの部屋、図書準備室に連れて行かれた。

── バタン  ガチャッ。

えっ? ガチャッ?って・・・、えぇーーー?? 鍵掛けられた???


「ごめんね、あっちだと人目に付いちゃうから。」

「あ、あの・・・、か、鍵? 締めました??」

「うん、話を他の人に邪魔されたくないから。」

えぇーーー?? そんな、話をするだけで鍵なんか掛ける?? 普通・・・。

「ん?? 大丈夫。 別に、襲ったりしないから♪」

冗談のつもりかもしれないけれど、
昨日、田代先輩が急にキスしようとした事を思い出し、背筋がゾッとする。

思わず、2歩後ろに下がった。

「あっ、えっと、ゴメン。冗談よ。」

「は、はい・・・。」

図書準備室に入ってから、一方的な秋永先輩ペース。
これじゃいけない!と、自分から話しかけてみる。

「あ、あの!」

「なに?」

「手紙に書いてあった事で・・・。」

「うん、静の事で、笠井さんに話しておきたいことがあって。」

「静って・・・、田代先輩の事ですよね?」

「うん。」

「その話しって・・・?」

「その前に、昨日、笠井さんは、静と話をしたよね?」

「えっ?? あっ、えっと・・・。」

「昨日、静から呼び出されたかして、話をしたでしょ?」

「えっ、えぇーー。 は、はい・・・。」

「静に、告白された?」

「──っ!! な、なんでそれを??」

「やっぱりね。そうだと思ったから、今日笠井さんを呼び出したんだけどね?」

「どうして、私と田代先輩との事を知っているんですか?」

「んーーー。 簡単に説明すると、私と静は幼なじみだから、大抵の事はお互いに話すの。」

「田代先輩から、一体なんの事を聞いているんですか?」

「昨日、笠井さんは、静から告白されたんでしょ?」

「──っ!!!」

「笠井さん、静への返事、どうした?」

「?? へ、返事って・・・。」

「返事って、もちろん、告白の。」

「あっ・・・、えっと・・・。」

「全校生徒の憧れの的の静からの告白だもんね。 笠井さん、驚いたでしょ?」

「えぇーっと・・・、あのですね・・・。」

「ん??」

「実を言うと、私、田代先輩の事、全く知らなくて・・・。」

「えぇぇぇ?? 笠井さん、静の事知らなかったの??」

「はい・・・。」

「それじゃ・・・、返事は・・・?。」

「あっ、あの、えっとですね、最初は、断るつもりで・・・。」

「まさか、断ったの?!」

「いえ、あの、断ろうとしたんですが、しばらく友達付き合いをして欲しいと・・・。」

「えっ?? 友達付き合い?」

「はい、3ヶ月間。 友達付き合いをして、自分を知って欲しいと。」

「んふふ・・・♪ なるほど、静らしい。」

「へっ?」

「そう言う事ね。 話してくれてありがとう♪」

「あ、あの・・・。」

「ん? なに?」

「どうして、田代先輩は、私のことを?」

「んー、それは、私の口からは言えないかな。 静本人から聞いたら?」

「で、でも・・・。」

「あのね、私からもお願い。
 3ヶ月でもいいから、静の事を良く知って欲しいの。 出来るだけ、静と一緒に居て欲しい。」

「ど、どうしてですか?」

「今日は、笠井さんに、その事を言いたくて、呼び出したの。」

「だから、どうして?!」

「静が、どうしてあなたを選んだのかは、いずれ、静が教えてくれるから。」

「どうして、秋永先輩は、私にそんな事を?」

「私にとって、静は大切な人だから。」

「えっ?」

「静は、幼なじみで、一番の親友だから。 だから、静に幸せで居て欲しいの。」


その一言を口にした時の秋永先輩の表情が、少し寂しそうに見えた。

── 気のせい?

「秋永先輩のおっしゃる事の意味は分かりますが・・・、
 自分は、田代先輩とは友達として接していくつもりです。」

「うん、解ってる。
 無理に、あなたに静の気持ちに応えてもらうつもりはないの。
 ただ、静の一番側に居て欲しいだけ。」

解らない・・・。

どうして、田代先輩も、この秋永先輩も、私にそんな事を言うのか。

どうして、私が田代先輩の一番近い所にいなければならないのか?

どうして、田代先輩が私のことをそんなにも望むのか?

どうして、秋永先輩は、私が田代先輩の側にいることを望むのか?



自分の知らない所で、何が起きているのかが、全く解らない。

どうして、望まれているのか、 それに応えなければならないのか。


「──── ・・・。」

「ごめん、余計な事を言っちゃったかな。 静には、私が笠井さんと話しした事は言わないでくれる?」

「ど、どうして・・・。」

「静に、余計な事をしないでっ!って、怒られるから♪、ね? お願い! 内緒にしてね?」

「解りました・・・。」

「ありがとう。 それじゃ、そろそろ行こうっか。」

秋永先輩はそう言うと、準備室のドアの前に立ち、ドアの鍵を外して、ドアノブを掴んでいた。

「は、はい・・・。」

促されるままに、ドアの前に立つ。

そのままドアを開けてくれるかと思っていた時、不意に沈黙がその場を包んだ。


それが気まずく感じ、思わず秋永先輩を見ようとしたその時 ──


── えっ?! 


体をふわっと暖かいもので包まれた。

一瞬何が起きたか解らない。
体を何かにからめ取られ、ただ自由が利かない。


── っ?!!

不意に耳元に暖かい吐息を感じる。


「静を・・・、静の事をお願い・・・。」

その縋るような小さな声の意味を理解した時、
背後から秋永先輩に抱きつかれている事が解った。

咄嗟の事で、秋永先輩の体を振り解こうと思えばできたけれど、
消え入るようなか細い声に、何も出来ずに、ただ立ち尽くした。

一瞬の事だったのか、何分もそうしていたのか解らなかったけれど
秋永先輩は、静かに私の体に回していた手を解き、
ドアを開いて、私の背を外へと押し出した。

思わず振り返ると、秋永先輩は、図書室で初めて声を掛けてきた時のような
眩しい笑顔だった。

「今日はありがとう。」

「はい・・・。」

「私は、ここで少し調べ物があるから、先に戻って。」

「し、失礼します・・・。」

一言挨拶をして、先輩に背を向け、図書室のドアへ向かった。

図書室を出る前に、振り返り、図書室のドアを見ると、そのドアもう閉ざされていた。



教室に戻るまでの間、秋永先輩の眩しい笑顔と、最後に耳にした声だけが
脳裏に何度も再生された。


ふと、廊下の窓の外を見上げる。


── 田代先輩、秋永先輩。

── あなた方2人は、私に何を望んでいるのですか?

── 私は、一体何に応えなければならないのですか?


そして、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。




とりあえず続く?