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『Turning Point:年明け編』=夜明けの願い=
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【Turning Point:年明け編】


「ねぇ、一緒に初日の出見に行かない?」

仕事納めの日、納会を終えた後ロッカーで着替えている時に、不意に朋美から突然誘われた。




=夜明けの祈り=



1月1日 AM 0:30

「朋美、そんな体調で明日出かけたら辛いと思うよ?」

「ん~・・・、でも、一緒に初日の出見に行きたいよぉ~。」

そう言っている朋美は、今私の部屋にいて、炬燵で体を丸めている。
毎年同じと思いつつも、ついつい見てしまう紅白歌合戦も終わり、行く年来る年を見ながら
午前0時を過ぎ、今年は朋美と一緒に年を迎えた。

まさか、クリスマスに続いて、お正月も2人で一緒に迎えられるとは思っていなかった。
そこまでは良かった。それから少し仮眠して約束通り初日の出を見に行く予定だったけれど・・・。

肝心の朋美は、少し風邪気味らしい。
こんな状態で寒い深夜から出かけて外に長時間いたら、悪化するに決まってる。

「ダメ。 そんな寒がっているのに外に出かけたら本当に風邪引くから我慢。」

「えぇ~、 だって、初日の出って1年に1回しかないんだよ? 厚着するから、ねっ?」

炬燵に入りながら、潤んだ瞳で上目遣いされると、それだけで頭がクラクラしてしまう。

(うっ・・・、そ、そんな瞳で見つめられると・・・・、ま、まずい・・・。)

慌てて目をそらして一呼吸。ここで流され、朋美に年明け早々風邪を引かせる訳にはいかない。

「とにかくダメ。 今夜は本当に冷えるんだから我慢して。 年明け早々体調壊したくないでしょ?」

「風邪引いたら、今度は和美に看病してもらうもん・・・。」

な、なんて事を言うんだ、朋美は!!
そ、そりゃ、風邪でも引いたなら、朋美の看病は寝ないでする覚悟くらいあるけれど。
でも、そういう問題じゃない。 わざわざ苦しい思いをさせる訳にいかない。

「ダメと言ったらダメ! ったく、どうして今日に限ってそんな子供みたいに駄々こねるの?」

「だ、だって・・・・。」

「何かあるの??」

「そ、それは・・・。」

「はぁ? 聞こえない、はっきり言う!」

「初日の出に願掛けるといいって聞くから・・・。」

(初日の出に願掛け。確かに聞いたことはあるけれど、朋美が風邪引く覚悟で掛ける願って・・・。)


『あのね、私、ずっと昔から好きな人がいるの。』

ふと、前に酔っぱらった勢いで朋美が口にした言葉が脳裏に浮かぶ。
何を願うのか、解ったような気がしたけれど、それ以上は考えないようにした。考えたくなかった。


「とにかく、ダメったらダメ。 ほら、体温計で熱測ってごらん?」

「えぇー、嫌。」

本当にいつになく朋美は頑固だ。
拒否するってことは、おそらく熱っぽいのを感じているからだろう。

実力行使で、朋美の額に手を当てた。

「熱なんてないってば。」

朋美は一瞬で私の手を払いのける。
一瞬触っただけだったけれど、ほんのりとした熱っぽさを感じた。
そんなに高くない感じで、微熱程度。 でも、これで悪化したら一気に熱が出るかもしれない。

「やっぱり少し熱っぽいよ。 朋美だって解ってるでしょう。」

「熱ないってば!! ほら!!」

いきなり朋美が丸めていた体を起こし、顔を近づけて、自分の額に私の額を合わせた。

「と、朋美!!」

いきなりの事で頭の中が一瞬にして沸騰した。
目を閉じた朋美の顔が2cmと離れず顔面にある。 鼻先が触れるか触れないかギリギリの距離。

「ほら、熱ないでしょ?」

目を閉じたまま囁く朋美の吐息を渇いた自分の唇に感じる。
自分の熱が上がってしまい、朋美の微熱がまったく感じなくなってしまった。

「と、朋美!! そんなことしたってダメ!! やっぱり微熱があるよ!!」

慌てて肩を掴み、押し返す。

「えぇー、今和美の方が熱かったような気がしたけどなぁ~。」

「そんなこと良いから!! 今日はもう早く寝る!!」

「和美の意地悪・・・。」

「意地悪といわれようと、鬼といわれようと、ダメなものはダメ。
 ほら、本当に風邪にならないうちに寝る! ベッドに寝ていいよ。 私はこっちに布団敷くから」

「和美がベッドで寝ていいよ。 私がこっちに寝るから。」

「ダメ! ベッドの方が暖かいから。」

朋美は何か言いたげだったけれど、何も言わずに俯いていた。

「・・・・。」

「朋美??」

「それじゃ、寝るね。 ベッド取ってごめんね。」

そういった朋美の言葉は少し淋しげな気がした。

(はぁ~、しょうがない。)

私は居間に布団を敷きながら、携帯を取り出し、アラームを6:20にセットした。

「それじゃ、電気消すよ。 おやすみ。」
「うん、おやすみ。」

私たちは静かに眠りについた。

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