『Turning point』 |
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帰るはずだった朋美は、今私の手を握り返してそのまま私を見つめている。 何か言わないといけないと思いつつ、言葉がでなかった。 実際は1分程度だったかもしれないけれど、私にはとても長い時間に感じた。 「和美、携帯の電源はいれておいてね。 何かあったらいつでも連絡すること。」 「あっ、う、うん、わかった。」 それだけ言うと、朋美は何も言わずゆっくりと私の手を離し、玄関へ向かった。 戸締まりをするために、私も起きあがり、朋美を見送った。 「ちゃんと週末までおとなしく寝ていてね。」 そういって振り返った朋美の顔はいつもの顔に戻っていた。 朋美は玄関を出て帰っていった。 私は戸締まりをして、自分の布団に戻った。 横になりながら目をつぶると、さっきの真剣な眼差しの朋美の顔が浮かんできた。 私はどうして朋美の手を掴んでしまったのだろう。 それより、あの沈黙の間はなんだったのだろう。 真剣な眼差しの朋美は、何か言いたげだった気がする。 言いたいけれど、沈黙に負けて言葉を飲み込んだような。 それとも、私がいきなり手を握ったことで、私に何か聞きたくなったのか。 気にしても仕方ないので、余り考えないことにした。 それから携帯を取り出し、朋美宛に今日の感謝の気持ちを伝えるメールを打った。 すぐに朋美から返事が来た。 元気になったら何をおごってもらうか考えておくからと。 その日はとても幸せの余韻に浸りながら眠りにつくことができた。 |
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