『Turning point』
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彼とのつき合いは予想に反してうまくいっていた。


会社でも休日でも、彼と一緒にいることは安心できた。
いままで一人で孤独を抱えていたけれど、何か暖かいものに包まれているような感じだった。


つき合いだしてからしばらくして、彼の車で山へドライブに行った。

彼の車に乗っている間、山頂に着き、清々しい風を受けた時、朋美の事を考えなくなっていた。


楽しくドライブが終わり、マンションの前まで送ってもらって
車から降りようとした時、不意に彼に手を捕まれた。彼のその真剣な眼差しで、何を望んでいるのか理解した。


私は彼とその日、初めてキスを交わした。


彼は照れくさそうに、また明日!と言うと、私を降ろし、車を走らせた。

彼の唇を感じたはずの私の心臓は一瞬に凍り付き、体中に冷たい血液が駆け抜けた。


私はこのキスで全てを悟ってしまった。

愛しい人のはずである彼とのキスは、私が彼を愛せない事実を目の前に突きつけてきた。



その日から、彼の気持ちへの罪悪感と自分自身の嫌悪感に押しつぶされる日々が始まった。
事態は彼とつき合う前よりも更に悪化していった。

彼を騙しているという罪悪感、こんなにも愛されているのにそれに応えられない自己嫌悪、
忘れようと押さえていた朋美への想いが反動で今まで以上にふくれ上がり、
自分自身がどうなってしまうのか解らなくなってしまった。



いっそのこと狂ってしまえれば楽だったのかもしれない。
それでも中途半端な理性のおかげなのか、私は狂うことは無かった。


それでも彼とのつきあいは続き、そのうち彼は私を抱きたがるようになった。

最初のうちは理由をつけて断り続けた。優しい彼は、無理強いすることはなかった。
何回か断り続けた後に、私は彼の優しさへの贖罪として彼に抱かれることを覚悟した。

途中までは耐えられた、でも最後は結局拒絶をしてしまった。そして私は泣いていた。
彼は何も言わずにそれでも抱きしめてくれた。その優しさが苦しくて、
自分自身に絶望して、私は泣き続けていた。



私は解っていた。この関係がすでに限界にきていることを


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