『Turning point』
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「でも、それも、もう今回で終わりにすることにしたの。」


注がれたワインを一口飲み、彼女はつぶやいた。

終わりにするって、そんな簡単にできるものなのだろうか?
私は朋美への想いを10年抱えている。それを今日明日で終わりにすることなどできない。


朋美とその人のつきあいがどれくらいかは知らない。
でも、朋美のその想いは、恐らく私の想いの年月より長いだろう。それならなおのことそんな事は無理だ。


「それだけ長く思い続けた気持ちを簡単に終わりにすることなんてできるの?」


私は沈黙を破り、無意識に強い口調で言い放った。
彼女に向けた言葉であり、私自身への自問自答の言葉でもあった。


「昨日ね、今つき合っていた相手と別れてきたの。こんな代償行為の恋愛なんて、いつか必ず限界が来るから。
 今までみたいに、その人を忘れる為に次の相手を捜すような事を終わりにしようと思ったの。

 私はあの人の事を今でも変わらず好きだし、困らせたくないし、関係を終わりにしたくない。
 だから、この気持ちは伝えない。

 だけど、あの人を好きでいる間はずっと想い続けていたいって思ったの。

 私があの人を好きでいる事は私の自由だから。 だからこれからも好きでいようって思うの。
 今でも私、あの人だけを愛しているから。この想いはやっぱり止められないの。」


そこまで言うと、朋美は私に笑顔を向けた。
暗闇に浮かぶ朋美のその笑顔は、今までみた笑顔の中で一番美しかった。
全て聞き終えた懺悔と彼女の笑顔を見た時、自分の頬を伝わりながれる物があることに気づいた。

私は泣いていた。

懺悔を終えた彼女に許しを与えるべく、私は黙って彼女の隣に座り頭を抱きしめた。

「大丈夫。朋美はその人のことずっと好きでいていいんだよ。もう無理することないから。
 辛かったね。気づいてあげられなくてごめん。話しを今までで聞いてあげられなくてごめんね。」


私はそういいながら、朋美の頭を優しくなでた。

腕の中から、朋美の嗚咽が漏れてきた。 ずっと我慢していた想いがあふれたのだろう。
誰にも言えなかった苦しみから解放された安心からか、私の腕の中で朋美は泣いていた。


私も顔を上げ、気づかれないように泣いていた。涙が頬を止まることなく流れ落ちていた。


このとき、私は生まれて初めて神に祈った。 朋美を癒してください。
彼女に幸せを与えてください。彼女の苦しみを私が全て背負うことでこの願いを叶えてくださいと・・・。


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