『愛しきロクサーヌ』
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「いかないで・・・。」

起こそうと近づいた朋美が、小さな声で呟いた。

「朋美?」

「お願い・・・、行かないで・・・。」

そう言いながら、朋美は悲壮な表情を浮かべ一筋の涙を流した。

(一体、何の夢を・・・)

何か悲しい夢を見ているのだろうか。
想い続けている人の夢をみていたんだろうか・・・。
胸がギュッと締め付けられる。

朋美の頬にそっと手を添え、親指でそっと涙の後を優しく拭った。

「っ?!」

その時、朋美に頬に添えていた手の上に、突然朋美の手が重ねられた。

「と、朋美、起きてるの?」

急に不安になり、思わず声がうわずってしまう。

「ん・・・。 ごめん、少しだけ、このままでいい?」

朋美が目を閉じたまま小さく呟く。

「い、いいけど・・・、ど、どうしたの?」

「うん・・・、 ごめん・・、とっても嫌な夢見ちゃって、怖くて・・・。」

「そっか・・・。」

よっぽど何か嫌な夢を見たのだろう。
私は頬に添えられている手をそのままにして、もう一方の手で優しく髪を撫でた。
悲しみを浮かべていた朋美の顔は、静かに安心した表情に変わった。

しばらくそうしているうちに、自分が朋美にしている事がだんだん恥ずかしくなってきた。
きっと、今耳の裏まで真っ赤になっているだろう。顔中が熱くて仕方ない。

「い、いたっ!  か、和美!!」

手を今更引っ込めるのが照れくさくなり、朋美の頬を軽くつねった。

「ほら、そろそろ寝よう。 炬燵で寝ると風邪引くんだから。」

「もう・・・、だからって、つねることないじゃない。」

不満を口にしながら、少し笑みを浮かべながら朋美が目を開いた。

「今日はそんなに酔っぱらってないでしょ? ほら、ちゃんと着替えて。」

「うん、ありがとう。 その前に、シャワー借りていい?」

「かまわないよ。 私は明日シャワー浴びるから、ガス切ってきてね。」

「ありがとう。」

朋美は起きあがって、私の渡した着替えをもって、シャワーを浴びに行った。
私はその間に、炬燵の上を片づけて、台を上げて壁に移動して布団を敷いた。

シャワーを浴びている間に、布団に入ってしまおうと思った。
そうしないと、今日に限ってどうしてここで寝るのかを突っ込まれそうだったから。

スエット上下に着替え、布団に入ると、シャワーの水音が聞こえてくる。
さっき触れた朋美の頬の感触とその上から重ねられた手の温かさを思い出していると、
今日飲んだシャンパンやワインの酔いに誘われ、ゆっくりと眠りについた。

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