『めぐり逢えたら -朋美Side-』
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えっ?!

引っ張られた右腕と、引き倒された時に投げ出してしまった左腕を頭の両脇に、力強く押さえつけられている。

な、何?? えっ?!

頭を働かせて、今の状況を考える。

両腕を頭の両脇に押さえられ、体全体に、重く感じない程度の圧迫感がある。
私は、和美に組み敷かれていた。

「か、和美っ? ど、どうしたの? ちょ、ちょっと、酔っぱらってるの?」

唐突な状態に、体を捩って、和美から逃れようともがいてみる。
けれど、両腕は思いがけないほどの強い力で押さえられ、体全体を強引に押さえつけられる。

「酔ってない・・・。」

低い重い和美の声が聞こえた。

ハッと和美の顔を見上げると、その顔があっという間に近づいてきて・・・、

「ぅんん・・・・・。」

和美に唇を塞がれた。

頭の中が痺れる。 背筋に電流が流れて全身が麻痺する。
体の力が抜ける。

「ぅんん・・・・・。」

和美にキスされている。 その事実が、頭の中を真っ白にする。

唇が熱い。
息が出来ない。
酸素が無くなる。

重ねられるだけの唇が、熱を帯び、体中が血が沸騰する。
いつまでも感じていたい和美の唇。
けれど、息ができず、苦しくなり、限界が来て、顔を逸らす。

同時に唇が離される。
呼吸が荒くなり、肩で息をする。

「はぁっ、はぁっ・・・。  か、和美・・・、ちょ、ちょっとどうしたの?」

息を整えて和美にどうしたのかを問いかける。
なのに、答えが返ってこない。 見上げて和美の表情を伺おうと思っても、影になって見えない。

和美にキスされた嬉しさよりも、らしくない和美の行動で不安になる。
一体、どうしたの?

しばらく沈黙が続く。

その静けさに耐えられず、和美の名前を呼ぼうとした。

「かず・・・、ぅぅんっ!!」

また唇を塞がれた。
今度は、触れるだけじゃなく、もっと深く重ねられる。
キスなんて、優しいものじゃない。
一方的に唇を奪われている。

「うぅぅん・・・・、んぅん・・・・、ぃやぁ・・・。」

嫌だった。 こんな一方的なキスは。
こんな、強引に私の目さえ見てくれないようなキスは嫌だ。

私の想いとは裏腹に、私が顔を逸らして貪られている唇の隙間から声を上げると
更に唇を深く交わしてくる。

息を呑まれる。
全てを吸い尽くされてしまう。

耐えられず、唇を開くと、その隙間から、更に捕食される。
和美の熱い舌が、なぞるように滑り込む。

避けるように、逃げるように隠す私の舌が、簡単に絡め取られる。

「むぅんん・・・、 ぅんん・・・。」

お互いの唇の隙間から、一筋の細い糸がこぼれ落ちる。

肺の中、脳の中の酸素まで、全て和美に吸いつくされる。
意識がとぎれそうになった時、唇が不意に離された。

離された勢いで、頭がベッドの中に埋もれる。

意識が朦朧とした状態で、右腕の拘束が外される。
腕を掴んでいた和美の右手が、優しく私の頬に添えられる。

「どうして・・・。」

掠れた声で、和美に問いかける。
同時に、涙が頬を伝う。

どうして、 こんな事をするの?
どうして、 キスなんかするの?

涙が溢れる。 和美の気持ちが分からない。
何を考えているのか解らない。

和美の事は好き。
でも、こんなキスは嫌。 嬉しいはずのキスが、こんなに痛くて悲しいのは嫌。

添えられた和美の右手に自分の右手を重ねる。

答えて・・・、和美。
どうしてなのか・・・、 お願い、答えて・・・・。

「ごめん・・・。」

低い声が頭上から聞こえた。
涙で霞んだ視界で、和美の顔を見る。

「和美・・・?」

影になっていた和美の表情が少しだけ見えるようになる。
その表情は、今にも泣き出しそうな顔。

「ごめんね・・・、でも、今日だけ・・・、お願い・・・。」

和美の頬に一筋、涙がこぼれ落ちる。

「どうして、和美が泣いているの?」

和美の涙の流れた頬に手を添える。
触れた頬の手の上から和美の手が重ねられて優しく包まれる。

「いいよ・・・、私、和美の事好きだから・・・。」

緩んだ左腕の拘束を解いて、和美の両頬を包んで、自分の顔の前に引きつけ、
今度は自分から唇を重ねた。


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