『めぐり逢えたら -朋美Side-』
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どうやって帰ってきたのか、あまり覚えていない。
頭の中では、滝川さんが言っていた言葉が繰り返し再生されている。

和美が会社を辞める?

そんなの急すぎる。 何も聞いていない。
携帯を握りしめ、何度も掛けようとディスプレイに和美の番号を表示させるも、
滝川さんの手前、切り出すことができない。

なにより、滝川さんとはあまり接点がないことになっている以上、
和美が滝川さんに打ち明けた話を私が知っている事を知られる訳にはいかなかった。

きっと、ちゃんと話をしてくれるはず・・・。

私は和美を信じて、本人が切り出してくれるのを待つことにした。
和美にとって私は大切な友人であることに間違いないと思っているから。

滝川さんの事ははっきりさせたというのに、今度は別の問題で更に気が重くなる。
和美が会社を辞める事に比べれば、滝川さんとの事など、どうでもよくなるほどだった。


翌朝、1日ぶりに出勤する。
ロッカーで和美に会い、まず昨日のお見舞いを断った事を詫びた。

「朋美が元気ならそれが一番だからこっちの事は気にしないで。 逆に気にさせてゴメン。」

と、笑顔で答える和美。
いつもと変わらない和美の笑顔。

本当に? 本当なの? 何かの間違い?

滝川さんに言われた事が、夢の中の出来事だったのでは?と思う。

思い切って和美本人に直接聞いたら、そんなこと、有るわけないじゃない!と笑顔で否定してくれるだろうか。
そんな衝動を思い切り抑えて、私も何事もなかったように和美に笑顔で答える。

和美が切り出してくれるまで待っていよう・・・。

そう心に決めて、和美と一緒に職場へ向かった。


その日から3日、結局和美は何も打ち明けてはくれなかった・・・。


その週の金曜日、いつもと同じ昼休み。

滝川さんとの事をはっきりさせたことで、妙な重たい空気はなくなり、穏やかな雰囲気に戻った。

食事を取りながら、たわいもない話をしていると、不意に和美が話題を止めた。

「朋美、今日夜暇?」

「えっ? 今晩? 別に予定とかないけど、どうして?」

「今日さ、うちに泊まりに来ない?」

「えっ?」

「急で悪いんだけど、今日なんかゆっくりと飲みたい気分でさ。 どう?」

和美の急な誘いで内心驚く。
けれど、もしかしたら何か話してくれるかもしれない、そんな期待が同時に膨らむ。

「あっ、うん、いいよ。」

良かった、と笑顔を浮かべた和美の表情は、いつものものとは、どこか違っていたような気がした。


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