『めぐり逢えたら -朋美Side-』
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「すみません・・・。」

しばらく間が空いてから、やっと一言口にした。 言わなければならない結論を一言で集約した言葉。

カウンターの上に、滝川さんのグラスがカタンと音を立てて置かれる。

「そう・・・。」

店内が薄暗くて滝川さんの横顔ははっきりとみることが出来ない。
けれど、重々しく聞こえたその声が、気持ちを全て代弁しているようだった。

「すみません・・・。 今想う相手が大切なんです。
叶わなくても、気持ちを伝えられなくても、それでもいいと思っています。」

「ヘテロ(異性愛者)なんか好きになっても、軽蔑されるだけよ?
私たち、マイノリティは、同じマイノリティ同士でないと、想いを遂げることは難しいわ。」

「解っています・・・。 そんな事は・・・。」

「あなたは、自分が幸せになりたいとは考えないの?」

「そ、それは・・・。」

「私は、あなたを幸せにする自信がある。
8年前にあなたを捨てた事は、どう償っても償いきれない事だと思ってる。
けれど、あなたを受け止めて、幸せにできるのは、わたしだけよ。」

和美が、私の気持ちを受け入れてくれるはずはない。
この気持ちが、届くことがないことは、昔から・・・、そんなの初めから分かり切っていた。

それでも・・・、それでもこの気持ちは抑えられない。

私の想いを知られれば、軽蔑されるかもしれない。 避けられるかもしれない。
万が一、理解してくれたとしても、この気持ちを受け止めてくれることはない。

自分では解っていた頃でも、改めて人から指摘されたことで、自分の恋が絶望的であることを思い知らされる。

涙がこぼれる。

「それでも・・・、私はその人の事が好きなんです。
この想いは、相手にとっては、迷惑でしかない事は解っています。
世の中は、こんな想いを受け入れてくれない事も解っています。
私たちは、周りを誤魔化しながら生きていかなければならない運命です。

だから・・・、だからこそ、私は自分だけは偽りたくないんです。
あの人を思う気持ちは、間違ってない、この想いは真剣で、純粋なものだから。」

うつむきながら、私は自分の気持ちを全て言葉にして伝えた。
私が伝えたかった気持ち、想いを全て。

「ふぅ〜・・・、 そう、解った。
随分変わったのね。 あなた、強くなったわ。」

「えっ?」

「昔は、心細そうに、いつも私に縋るような目をしていたわ。 だから、いつも放っておけなかった。
けれど、今のあなたは、とても凛としていて・・・、そして綺麗な女性になったわ・・・。」

「そ、そんな・・・。」

「うふふ・・・。  辛い恋でしょうけど、何かあったらいつでも相談して。
変な意味じゃなくて、古い友人として、話しくらいは聞いてあげるから。」

滝川さんの暖かい言葉に、今度は違う涙が溢れてきた。


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