『めぐり逢えたら -朋美Side-』
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もうすぐ、和美が来る。
きっと、以前私が和美の事を看病したから、そのお返しに来るのだろう。
でも・・・、今は会いたくない。 会うと辛いだけ。

携帯を握りしめ、しばらく考えた末に、お見舞いを断る返事をいれることにする。

断りの返事を出そうとした時、不意にまた電話がかかってくる。
着信をみると、和美から。

おそるおそる電話に出る。

「もしもし?」

「あっ、朋美? やっと出た。 具合はどう?」

「う、うん、ごめんね、心配掛けて。 もう大丈夫。」

「さっきメールしたんだけど、今からそっちに行ってもいいかなぁ。」

和美の優しい声。

「朋美?」

私の名前を優しく呼ぶあなたの声。
けれど、今は逢えない。 逢いたくない。

こんな私を見られたくない。 知られたくない。

「ありがとう。 気持ちだけ受け取らせて。
体調はもう本当にいいから。 心配かけちゃってごめんね。」

「で、でも・・・。」

「私のお見舞いなんかで、半日休み使うなんてもったいないよ。
その休みは、今度一緒に映画でも観る時のにとっておいてくれる?」

「・・・・。」

「ごめんね。」

「わかった。 それじゃ、今日は本当にゆっくりしてね。 また明日ね。」

「うん、明日は必ず行くから。 本当にありがとうね。」

「じゃぁね。」

電話を切った途端に、腕に力が抜け、携帯をベッドに投げ出してしまう。
止まった涙が、また頬を伝う。

「ごめんなさい・・・。」

涙が行き場のない想いと一緒に溢れ出て止まらない。
流れ落ちる涙は、シーツにそのまま地味な模様を描く。

耳には、私の名前を呼ぶ和美の声、瞼を閉じれば和美の無邪気な笑顔、
耳について、脳裏に浮かんで離れない。

全てがもう限界だった。
全てが和美に知られる前に、和美から笑顔が消える前に・・・。

投げ出した携帯電話を手探りでたぐり寄せて開き、
ディスプレイに会社の課のダイヤルイン番号を表示させる。
何度かの呼び出しコールの後、職場の男性が応対に出る。

「はい、○○商事営業第2課です。」

「松下です。 すみませんが、滝川部長に繋いでいただけないでしょうか。」


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