『めぐり逢えたら -朋美Side-』 |
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午後の始業のチャイムが、重い空気から解放してくれる。 午後仕事を始めても、全く手に着かない。 全ての原因は、私にある。 そう、滝川さんが今更何を言ってきても、私が動じなければ問題がない。 けれど、動揺する原因は私にある。 和美にこれ以上隠し事をしたくない。 全てを打ち明けてしまえたら、どれだけ楽だろう。 これが、昔の彼氏というなら、何の気兼ねなく打ち明けられるのに。 私が同性愛者であることは知られたくない。 和美に嫌われたくない。 避けられたくない。 好奇の目で見られたくない。 和美の事を信じていない訳じゃない。 けれど、打ち明けた瞬間に、いままでの関係は音を立てて崩れていく。 どうしたらいいのだろう・・・、いつまでも隠し続けられる訳もない。 そう思って視線を和美に向ける。 すると、和美と滝川さんが親しげに話しをしている姿が目に入る。 (どうして・・・。) 当てつけなのかとも思ったけれど、滝川さんが、今私の思う相手が和美であることを知るわけがない。 そう思いながらも、滝川さんがこっちに戻ってくる際に、和美にメールで真っ先に知らせたことが引っかかる。 滝川さん・・・、まさか・・・。 いや、そんなはずはない。 8年間、アメリカにいた人が、滝川さんが去った後の私の人間関係を知るはずがない。 偶然、偶然のはず。 耳打ちをするようにして、滝川さんが和美の側から離れていく。 和美の背中を凝視する。 和美・・・、今何を話していたの? 3時のお茶の時、厨房で和美を見つける。 何を話していたのか気になり、声を掛けようと思いつつも、声がでない。 滝川さんの事を聞き出すことで、和美に不審がられるかもしれない。 気付かれてはいけない。 私が滝川さんの事で動揺していることは。 胸が張り裂けそうになるのをぐっと堪える。 これ以上、和美に嘘は重ねたくない。 けれど、和美には知られたくない、知られるわけにはいかない。 2つの矛盾が私の胸を締め付ける。 これ以上考えないようにしないと・・・。 自分の気持ちを押し込めて仕事に集中するようにした。 定時後のチャイムが鳴り、早く帰ろうと支度をする。 まだ、和美と自然に接する自信がない。 少し仕事の後かたづけをして、ロッカーに向かい、外へ出ると、 会社の前に1台のタクシーが停まっていて、そのタクシーに、 和美と滝川さんが一緒に乗り込んで行く姿を目にした。 |
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