『めぐり逢えたら -朋美Side-』
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土日、家にいて、滝川さんの事を考えないようにしていたのに、気にしないようにすればするほど、頭の中で、
後ろから抱きしめられて、耳元で囁かれた言葉が甦ってしまう。

少しでも忘れたくて、携帯を握りしめ、和美にメールしようとしてみるけれど、
いざ送ろうと思うと手が止まってしまう。

(和美・・・。)

私が好きなのは、和美。
今想う相手は、和美なのに、どうしてこんなにも気持ちが乱れるのだろう。

私は何を恐れている?
私は、今でも滝川さんの事を?

そんなはずはない。
なのに、あのメールで私は滝川さんの所へ向かってしまった。

どうして?
考えたくない。
もう、8年前の事なのに・・・。 なのに、どうして今更。

東京支社に戻ってきた滝川さんが、もし和美に私とのことを話してしまったら?

まさか、そんな事はあるはずない。 いくら滝川さんだって、そんな事をするはずがない。

けれど、もし?

もし、和美が何か気付いたら? 何か感づいてしまったら?

滝川さんとの事を和美に知られるのが怖い?
和美を裏切っていることを知られるのが怖い?

怖い・・・、今の平穏な日々が壊れていくことが。
怖い・・・、本当の私を知られるのが。

私が、同性しか好きになれないと、和美が知ったらどう思うだろう。

入社してからすぐに、滝川さんとつき合っていたと知ったら、和美は・・・。

知られたくない、和美を失いたくない。

お願いだから、放って置いて。 もう、私にかまわないで・・・。

お願い・・・。

眠れない深夜に、閉じた瞼から涙が止めどもなく流れ落ちる。

もし、過去を消せたのなら、和美の傍にいられるだろうか・・・。

枕で嗚咽を抑えていても、もう戻れない現実が、静かに時間を刻んでいた。


月曜の朝、泣き腫らした目をタオルで冷やし、どうにか解らないようにしてから家を出た。
ロッカーで3日ぶりの和美と会う。 いつもと同じように向けてくれる和美の笑顔。
けれど、和美と逢えた嬉しさとは裏腹に、胸の中に、ズキンと痛みが走る。
気付かれないように、悟られないように、必死でいつものように振る舞う。

着替えの後、職場に戻り、朝礼が始まる。

予想していた通り、滝川さんの部長就任の挨拶があった。

夢なら覚めて欲しい・・・。
そう願わずにはいられなかったけれど、始業のチャイムと共に、現実に引き戻される。

いつまで持つだろう・・・。 それでも隠し通さなければ。

今の穏やかな日常を失わないように、私は必死で取り繕う。


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