『めぐり逢えたら -朋美Side-』
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滝川さんが宿泊しているホテルからすぐ近くのお洒落なイタリア料理店に入った。
知ってる店ですか?と聞いたら、日本を出る前に、何度か来たことがあるお店なの、と答えが返ってきた。

店内は薄暗く、店内には雰囲気を壊さないように、静かにアリアが流れている。
ギャルソンに案内され、2人用の個室に案内される。
料理は適当で良いわね、 そう言って、滝川さんが適当に頼む。

しばらくすると、ワインのボトルを持ったギャルソンがやってきて、静かにテーブルの上のグラスに白ワインを注ぐ。
一礼をして、ギャルソンがテーブルから離れると、グラスを持つように目で合図される。

「8年ぶりの再会を祝して。」

つられて、グラスを傾けると、チーンと、ガラスが綺麗な音を奏でる。

「そんなに緊張しなくていいわよ。 誰も取って食べたりしないんだから。」

「えっ!?」

思わず、うわずった変な声で返事をしてしまう。
滝川さんは、思わず、クスリと笑い、まずは食べましょう、と料理をすすめてくれた。

そこからは、さっき空港の喫茶店で聞かれたようは、恋愛に関する話題は何一つなかった。
その変わりに、8年間、滝川さんが不在にしていた期間の会社の話しや、最近の日本の話題、
それに、少し昔の思い出話。

思い出話は、辛い思い出のはずなのに、滝川さんが目の前にいて、その声に耳を傾けていると
昔の淡い記憶だけが甦ってきた。

食事の時間は、あっという間に過ぎ、会計時に自分の食事代を払おうとすると、
つき合わせたからと、一蹴されてしまう。

店を出て、ホテルに戻る途中で、私が帰るための地下鉄出口の前で別れる。

「今日は、ありがとう。」

「い、いえ・・・。 そ、それでは・・・。」

何を言っていいかわからず、すぐにその場を離れたくって、早々に立ち去るように軽く会釈して背を向けた。

その時・・・!!

「えっ!」

一瞬で何か暖かい物に包まれた。
背中を包まれ、腰を優しく抱きしめられている。
滝川さんに、背中越しに抱きしめられていると理解するのに、少し時間がかかった。

「た、滝川さん・・・、や、やめ・・・。」

「8年間、あなたの事を忘れた日はなかった。 
 あなたの心に、ほんの少し、私が入り込む隙間はないのかしら・・・。」

「は、離してください・・。」

抱きしめられる感触が懐かしく、弱い声でしか抵抗できなかった。

「ごめんなさい、もうこんな事しないから。 それじゃ、また会社でね。」

静かに回されていた腕を外され、両肩にそっと手を置かれて、後ろから声が聞こえた。
その手の感触が離れ、振り返ると、滝川さんの後ろ姿が少しづつ小さくなっていった。

地下鉄のホームで、不意に心細くなる。

(和美・・・、和美・・・・!!)

不安が押し寄せて来る。 もう、昔の事なのに、今は和美の事だけが好きなのに・・・。
なのに激しく心をかき乱されていた。

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