『めぐり逢えたら -和美Side-』
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午後、課長に来週一週間会社を休むことを伝える。
課長は、父親の体調を気遣ってくれ、1週間休むことも了承してくれた。

突然会社を辞める非常識な私の行動について何も咎めず、
気遣いさえしてくれる課長の心遣いが胸に浸みた。

定時後、仕事の後片づけも早々に、更衣室へ向い、来週の事を考えていると
朋美が入ってきた。

着替えながら、夕食をどうするかを話していると、
いつものように総菜を買って、家で食べる事になった。

マンションへ向かう途中のデパートで食べきれないほどの総菜を買い、
いつもより多めの酒類を買い込む。

今日は、私も浴びるほどの酒を飲んで、そのまま酔いつぶれてしまいたかった。

デパートからマンションまでの帰り道、
この道を2人で並んで歩く事は最後だと思うと、涙がこぼれそうで、
悟られないように夜空を見上げた。

この日の夜空は、都心でありながら澄んでいたのに、星は涙で全て滲んで見えた。

部屋へ着き、ドアを開ける。

「どうぞ。」

部屋に朋美を招きいれると、居間の前で、朋美が呆然と立ちつくしている。

「どうしたの? ほら、座って。」

どうしたのかと思い声を掛ける。

「う、うん・・・、ねぇ、和美、この部屋何か変わった?」

この間、半日会社を休んだ時、部屋の整理を始め、少し雰囲気が変わったのかもしれない。
鋭い朋美の指摘に、激しく動揺した心を見透かされないように、何気なく返事をする。

「えっ? そんな事ないけど? まぁ、少しいらないものを捨てたりはしたけど、それくらいかなぁ。」

「そ、そう・・・。」

どこか不思議そうに居間のテーブルの前に座る朋美。
私の生活に敏感に何かを気付く朋美の反応が、嬉しくもあり、哀しくもあった。

それから、買ってきた総菜を口にしながら、2人で食事をする。

何も気付かれないように、今は、2人のこの時間を大切にしたかった。

今は言いたくない。 明日、和美が帰る前に切り出せばいい。

いつもと同じように、テレビを見ながら、笑いながら、
そしていろんな世間話をしながら、時間は過ぎていった。

その合間、いつもでは考えられないくらいに、私はワインを口にしていた。

飲んで、酔っぱらって、全てが解らなくなるくらいに酔いつぶれてしまいたいのに
いくら飲んでも、ワインを口にしても、酔いは回らなかった。

気が付くと、時計は、0時を指していた。

「ねぇ、和美? 今日飲み過ぎなんじゃない?」

2人でワイン3本、いつもの事を考えれば変わらない本数。
だけど、飲んだ2人の割合がいつもとは大きく違っていた。
いつもと違い、私は朋美と同量を口にしていた。

「そう? でも、そんなに酔ってないけど。 私結構飲めるんだねぇ〜。」

それでも、まだ何か飲み足りなくて、4本目のワインに手を掛けた時、その手を朋美に止められた。


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