『めぐり逢えたら -和美Side-』
<<TOPに戻る

翌朝、会社にいつものように出勤すると、更衣室で朋美に会った。

体調は、もういいのだろうか?

でも、見舞いを断られた事が少しまだ尾を引いていて、うまく言葉を言い出せない。

うまく言葉にできずにいた時、先に朋美が声を掛けてきてくれた。

「和美、昨日はごめんね、せっかく来てくれるって言ってくれたのに断っちゃって。」

「朋美が元気ならそれが一番だからこっちの事は気にしないで。 逆に気にさせてゴメン。」

いつもと同じ笑顔で話しかけられた事に安心して、自然と言葉が出た。
それから、更衣室を一緒にでて、職場へ向かった。

良かった、朋美はいつもと同じ。
そう、いつもと同じ朝、同じ1日。

ここ数日、どこかぎこちなかった日々が、元に戻って嬉しかった。

それから、2日、いつもと同じように、昼休みは朋美とお昼を食べた。
いつもと同じなのは、朋美と過ごす時間だけ。

仕事は、課長の計らいで、他の人に気付かれないように、少しずつ同じ課の男性に
引継を始めた。

当初は、私の後任の女性を雇うつもりだったらしいが、時間があまりない上に
引継をしても、新任者がきちんと引き継げるかが解らなかったので、
今年の新入社員に一端受け皿になってもらい、その後で、新任者を雇う事になった。

なので、まだ仕事の負荷が軽い営業の男性新入社員に引き継ぎを始めた。

木曜日の帰宅後、実家に電話を掛けた。

退職することが正式に決まったことを連絡し、父親の容態を聞いた。
父親は、すっかり容態も安定し、来週中に検査の結果が出て、
それ次第では退院できるとの事だった。

良かったと母親に告げると、逆に、会社を辞めるのは本当にいいのか?と問いつめられた。
私は、都心での生活に未練がない事を伝え、来週、一時的に実家に戻る事を伝えた。

電話を切り、来週実家に戻り、その他引っ越しの手続き、マンションの解約手続き、
電気、ガス、水道、電話などの公共料金の解約手続き、引っ越しに関わるその他の手続きを
来週中に終えるようにしようと思った。

来週、1週間くらい休みを取ろう、それで一通りの手続きの準備をして、
面倒なことは早めに終えよう。

会社を辞めるまでの2週間、そのうち1週間で一通りの手続きを終える。

そして、残りの1週間は、悔いのないように、思い残すことがないように、
そして、後悔がないように、穏やかに過ごそう。

でも・・・・。

ここで一番重要な問題に気が付いた。

朋美にいつ辞めることを打ち明けよう・・・。

打ち明けるタイミングが解らず、結局、今日まで打ち明けられずにいた。

そうだ、明日、明日の金曜日、朋美にうちに泊まりに来てもらおう。
飲み明かしながら、打ち明けよう・・・。
きっと、この部屋で、一緒に夜を過ごすのは最後の機会かもしれない。

そう考えて、私は翌日の金曜日の昼休みに、朋美に泊まりにこないかと誘った。
朋美は、いいよ、と快諾してくれた。 でも、それが最後の思い出になると思うと、寂しく心が痛んだ。


次のページへ>>