『めぐり逢えたら -和美Side-』
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あの後、食事代は滝川さん持つからと言われ、自分が誘ったから自分が払うといったのに、
上司の言うことが聞きなさい、と一蹴されてしまった。
店を出た後、タクシーで最寄り駅まで送ってもらい、滝川さんとは別れた。

話を聞いてもらえたからか、どうするか自分で結論を出せたからか、
昨日、あれだけ悩んで、苦しかったのに、スッキリしていた。

自分の部屋に戻ってきたのは、22時。
この時間なら、母親が実家に戻っていると思い、電話する。

7コールめで、母親が電話を出た。

「お母さん? 私、和美だけど。」

「和美? どうしたの、こんな遅い時間に。」

「うん、ちょっと話したいことがあったから、そういえば、お父さんの具合はどう?」

「お父さん、随分落ち着いたわよ。 ただ、少し心臓の検査とかがあるから、
 もう少し入院するようだけど。 もう、呼吸器も外しているし、大丈夫よ。」

「そう、なら良かった。」

「話しがあるって、一体なに?」

「あのね、私会社辞めて、そっちに戻ろうかと思うの。」

「えっ? どうして? こっちにもどってきて、どうするの?」

「うん、実家に戻って、そっちで仕事探そうかと思って。」

「どうして、急にそんな・・・。」

「違うの、ここ最近、そう考えていたから。 実家の私の部屋、まだある?」

「和美の部屋は、ずっとあのままにしてあるから、大丈夫だけど。」

「良かった、それじゃ、少しずつ荷物送るけど、いい?」

「それは、いいけど・・・・。 まさか、今回のお父さんの事でそうしたの?」

「違うって、ただ、本当にそう考えていた時だったから、これもきっかけかなって思って。」

「和美は、それでいいの?」

「うん、もう決めたし、会社には、明日課長に言うつもり。」

「そう・・・。 解ったわ。 お父さんには私の口から伝えておくから。」

「ありがとう。 お母さんも体に気を付けてね。」

「ありがとう。 それじゃね。」

電話を切った後、部屋が静寂に包まれる。

これでいい・・・、実家に戻って、少しゆっくりしてから仕事を探そう。
退職金が少しはあるから、それでしばらくはやっていける。

少しずつ部屋の荷物をまとめ始めよう。 仕事から帰ってから少しずつ。
課長には、明日話をする。 それで、今月付けで退職にしてもらおう。

朋美には・・・、朋美には、まだ言いたくない。
辞める段取りに目処が付いてから、伝えよう。 

段取りを決めて、窓の外を見る。 この風景もあと少しだと思うと、もの悲しく思えた。


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