『めぐり逢えたら -和美Side-』
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「私は・・・、私の場合は、滝川さんとは、私は状況が違いますから・・・。」

「どういう事?」

「私は、片思いなんです。 だから、滝川さんとは全然違うんです。」

「それなら尚更、はっきりさせないままに、実家に戻ると後悔するわよ?」

「ダメなんです・・・。 どうしても、ダメなんです・・・。
 だから、これが諦めるいい機会だと思っているんです。」

「どうして、最初から諦めているの? 伝えてからでも遅くないでしょ!」

「いいんです。 始めから解っていた事なんです。」

自分で解っていた事なのに、口にする度に胸が軋む。
そう、始めから解っている事、叶うはずのない永遠の片思い。
伝えられるはずのない禁忌の恋。

涙が溢れそうになるのを、ぐっと堪えた。

「そう・・・・。でも・・・、それならどうして・・・、何を悩んでいるの?」 

「それは・・・。」

「何をそんなに苦しんでいるの?」

「片思いでも、一緒にいられるだけで幸せだったから。
 できれば、ずっと一緒にいたかったから。」

気が付くと、私は泣いていた。
頬を伝わり、絶え間なく流れ続けていた。

部屋には沈黙と、私が泣きじゃくる音だけが響き渡る。
どのくらい、そうしていただろう。

はい、と唐突にハンカチを渡される。
いえ、自分のがありますからと遠慮して、自分のハンカチで涙の後を拭う。

「会社は、やっぱり辞めるの?」

沈黙を破って滝川さんから問われる。
はい、と一言だけ返事をする。

「いつ辞めるの?」

「今月には、辞めようと思っています。」

「そう・・・。」

「はい・・・。」

「こんなに苦しんでいるあなたを目の前にして、私は何も力になれなくて、
 役に立つ事も言えなくて、悔しいわ。」

「いえ・・・、こうして話を聞いてもらえただけで、気が楽になりました。
 こちらこそ、変な話をして、気にさせてしまってすみませんでした。」

「早川さん、私に出来ることがあれば、なんでも言ってね。
 出きる限りのことは力になるから。」

「はい、ありがとうございます。」

「ニューヨークから戻ってきて、懐かしい顔のあなたがいて嬉しかったのに、寂しくなるわ。」

暖かい言葉をもらって、止まったはずの涙がまた溢れた。
その日の、せっかくの食事の味は解らなかったけれど、
滝川さんに話を聞いてもらえて決心が固まった。


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