『めぐり逢えたら -和美Side-』
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「早川さんは、どう考えているの?」

冷酒を一口飲み干して、滝川さんは静かに言葉を口にした。

「会社を辞めて、実家に帰ろうかと思っています。」

「そう・・・。」

「はい・・・。」

「そう考えているのに、私にどうして相談したのかしら?」

「そ、それは・・・。」

「両親が大好きで、戻らなきゃいけないと思っていても、踏み切れない理由がある、そうじゃない?」

「えっ・・・。」

「それだけ悩む理由は・・・、そうねぇ・・・、恋愛、に関することかしらね?」

全てを見透かされているような気がした。
自分が躊躇していることも、その理由も。

「滝川さんなら・・・、滝川さんだったら、どうしますか?」

縋るように、滝川さんに答えを求める。 自分で探さなきゃいけない事は解ってる。
でも、どうしたらいいのか、解らなくなっている。 だから、どうしても答えを求めたかった。

「そうね・・・。」

滝川さんはどこか遠い所を見ているような視線で、私の頭上へ視線を投げだしている。

「私ね、ちょうど8年前、ニューヨークに行く時、恋人がいたの。」

「えっ?」

「とても大切な人で、とても愛していて・・・、でも、私は相手と別れたの。」

「どうしてっ!!」

「私はそのころまだ若くて、相手に一緒にニューヨークに来てもらうだけの自信がなかったの。
 一緒にニューヨークに来て、なんて、口にできなかったわ・・・。
 相手の人生を、自分の人生に巻き込む事が怖かった、だから、私は別れる事を選んだの。」

「離れていても・・・、遠距離恋愛は考えなかったんですか?!」

「いつ、日本に帰れるか解らないのに、その間ずっと相手を縛る事なんてできなかったの。」

「でも・・・、でもっ!!」

「別れたというより、一方的に私が別れを切り出した形だったわ。
 他に好きな人がいるからって、だから、あなたと別れるって。
 私の自分勝手な結論で、相手を心底傷つけてしまったわ。」

「・・・・。」

「もう、昔の話しだけど、今は後悔してるの。 自分が出した結果なのにね。
 だって、8年間、ずっと忘れられなかったの。 ニューヨークで他の人といくらつき合っても。
 忘れられなかった・・・、というより、今でも忘れていないけど。」

「滝川さん・・・。」

「その人に、帰国してすぐに会ったの。 そしたら、相手にはもう想う人がいたわ。
 8年も経っているんですもの、当然そうだと思ったけど。
 でもね、もう一度やり直したい気持ちは伝えたわ。」

「そ、それで、相手の人は??」

「ダメだって、断られたわ。 でもね、まだ諦めてないの。
 相手が幸せになっていたなら、諦めたかもしれないけど、そうじゃなかったから。」

「そうなんですか・・・。」

「まぁ、私のことは今はどーでもいいのよ、それよりも、早川さん、あなたの事よ?」

「えっ?」

「今、その中途半端な状態で実家に戻ると後悔する、絶対に。 それでもいいの?」

滝川さんの辛辣な、そして図星な問いに、胸がグサリと刺されたように痛んだ。


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