『めぐり逢えたら -和美Side-』
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その翌日、父が意識の意識が戻った。

実家で仮眠を取った後、母親と交代する為に病室を訪れると、
部屋の中には医師と看護婦数人がいて
にわかにあわただしい雰囲気の中、何が起きているのか解らなかった。

母親の姿を探すと、部屋の真ん中にあるベッドの傍らで、
父親の手を両手で握りしめている姿を目にした。

「お、お母さん??」

おそるおそる声を掛けると、母親は振り返り、

「お父さんが、気が付いたのよ。」

と、涙で赤くなった潤んだ目で、父親の意識が戻ったことを告げた。

医師は、父親の脈を取り、看護婦は、点滴と人工呼吸器の状態をチェックしていた。
母親に手を引かれ、静かにベッドに近づくと、父親と目があった。

何か言いたいのに、何を口にしたらいいか解らず、
ただ父親の視線から目が離せず呆然と立ちつくしていた。

しばらくすると、医師が母親に小さな声で何かを告げ、
看護婦共々部屋から出ていった。

「まだすぐには話しできないけど、峠は越えたっておっしゃっていたわ。」

部屋から出る医師達に一礼して、母親がベッドの側に戻ってきた。
それを聞いて、不意に涙がこぼれた。

「大丈夫よ、軽い心筋梗塞だから。
 しばらく安静にすれば、1週間ほどで退院できるから。」

「うん・・・。」

父親は、人工呼吸器を付けたまま、何も語らず、優しい視線だけをこちらに向けていた。

「まったく、娘に心配かけて、しょうがない父親ね。」

母親は、笑いながらも目の片隅に浮かんだ涙を拭っていた。



2日ぶりに、自分のマンションへ戻った。

夕方まで、母親と父親の様子を看ていたが、容態はすっかり落ち着いたようだった。
もう1日ほど、父親の状態を看ていたかったが、夕方、母親に会社へ戻るように強く言われた。

何かあったら、携帯に電話するように伝えると、母親は、だいじょうぶよ、と一言口にして病院から
私を見送ってくれた。

金曜から実家にもどり、日曜の夜遅くに戻ってきた時、体と心が疲れ果てていた。
これで、明日から会社で仕事ができるのかと思うほどに。

疲れていたが、1つの事柄だけが頭の中に浮かびっぱなしで、他のことは何も考えられなかった。

実家に戻らなければ・・・。

年老いた両親、
心臓が弱くなった父、看病で疲れている母。
一人っ子である自分は、実家に帰り、両親を守らねばならない歳になっていた。

今回、父親が倒れたことは、もしかしたら、そうするきっかけなのかもしれない。

10年・・・。

自分が勤めた会社の年数を数えてみる。
朋美と過ごした時間も意味している時間。
明日、課長に退職時期について相談しよう・・・。

それだけ考えると、ベッドに横たわり、目覚ましだけかけて倒れるように眠りについた。
ここ数日、まともに眠れなかったから、その不眠が久しぶりに戻った自分の空間で一気にほどけた。
夢も見ずに、とても深い眠りについた。


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