『めぐり逢えたら -和美Side-』
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「朝早くから来て疲れたでしょう。」

母親の暖かい言葉で、ふっと全身の力が抜ける。

「うん・・・。」

「そこに、介護者用のベッドがあるから、少し横になりなさい。」

「大丈夫、お母さんこそ、少し休んだら? ずっと付き添っていて疲れているでしょ?」

「私は大丈夫よ。 ちゃんと、休むときは休んでいるから。」

「今度はお母さんが倒れたら嫌だからね。 だから、ほんと無理をしないでね。」

「解ってるわ。 こんな、泣き虫な娘をこれ以上泣かせたくないから。」

母親は、そう言って看護の疲れも、心細さも見せずに、優しく微笑む。
母親というのは、こんなにも強いものなのだろうか。
自分の伴侶が倒れても、決して動じず、娘が動揺しているのさえも、包み込む。

家庭を守るということは、こんなにも強さが必要なのかと、思い知らされる。
母親しかり、そして、きっと父親もそうだったのだろう。

今更ながら、自分の弱さと脆さを思い知らされる。

これから、自分は何をしたらいいのだろう・・・、そんな不安が胸の中に渦巻く。

自分が取るべき道を。
自分が、両親の為に出来ることは何か・・・と。


午後になり、母親と交代して、病院の外に出る。
病院の敷地にある、小さな公園があり、そこのベンチに座り空を見上げる。

心細くなった時、心に浮かぶのはいつも朋美の笑顔。
けれど、今浮かぶ笑顔は、胸に痛みを覚える。

朋美・・・。

ぐるぐると、頭の中にいろんなこが思い浮かびぐちゃぐちゃにかき乱される。

溜息と共に病室に戻ると、久しぶりに会う親戚と顔を合わせた。

午後は、父親の入院を聞きつけてお見舞いがてらに訪れてくれる人の応対に追われ
あっという間に面会時間が過ぎた。

深夜になったとき、母親は今日も付き添うからと言い、
私は実家に一人で戻った。

誰もいない実家は、静かでとても冷え切っている。

両親と共に、いろんな時間を過ごした実家。
共に過ごした食卓、テレビを見ながらの談話、もう遠い思い出。

さっきまで暖かく包んでくれる母親とも、いつか別れがやってくる。

この静まり返った実家が、そう遠くない未来を私に見せる。

一人がこんなにも孤独なのか、一人がこんなにも寂しいものなのか・・・。

一人で生きていく事というのが、こんなにも静かで寂しく、哀しいものなのか。

誰もいない実家の居間で、自分の体をかき抱いて座り込んだ。


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