『めぐり逢えたら -和美Side-』
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久しぶりの故郷だった。 戻ってくるのは、1年ぶりになるかもしれない。
あまり実家には戻ることがなく、せいぜい、お正月か、お盆か、どちらかに両親に顔を見せる程度。

こんな形で帰って来ることになるなんて、考えていなかった。
いや、いつかは、こんな日がくることは解っていたのに、考えないようにしていた。

怖かったから。
いつか、この現実に目を向けなければならないと知りつつも、目を逸らし続けてしまった。
その罰なのか、それは突然やってきた、何の心構えも出来ずに、何も考えられもしないままに。

8時過ぎに新幹線から降り、最寄り駅の路線電車に乗り換える。
その時、朋美の携帯に、今日休む事だけを書いたメールを送った。

私鉄に乗り換え、到着した駅からタクシーに乗る。
そして、昨日かかってきた電話で聞いた病院に着いた。

コンコンッ!

「どうぞ。」

病室のドアを開けると、そこには、久しぶりに会う母親がベッド脇に腰掛けていた。

「遅くなってごめん。」

「おかえりなさい。 急に呼び出してごめんなさいね。」

「ううん、私の方は大丈夫だから。 それより、お父さんの具合は?」

「電話で話した通り、昨日急に倒れたのよ。
 すぐに救急車を呼んで運んでもらったんだけど、意識がまだ戻らなくて。」

「そう・・・。」

淡々と昨日の出来事を口にする母は、1年ぶりに会うけれど、それにしても老けた気がした。
突然の深夜の電話。 父親が倒れたという緊急の連絡だった。

意識が戻らない、そう言われた時、背筋が凍り付いて、そこから何を聞いたのかは、余り覚えていない。
でも、冷静なことに、きちんと父親がかつぎ込まれた病院名と住所だけはメモに取っていた。

半分何も考えられずに停止した思考と、冷静に明日どうするかを母親に告げる思考が箇々に働き
電話を切った後、冷静に、家を出る支度をしている自分がいた。

支度が終わったのは、深夜2時。
始発の列車は5:20 寝ようと思えば寝られたが、、眠れるハズがなかった。

自分を大切に育ててくれた両親。
その両親も自分の年齢と共に老いてくる。 それは解っていたことだけれども、考えていなかった。
老いた両親、いつかは、その両親を自分が面倒をみる。
それが、自分を愛し育ててくれた両親への恩返し。

いつかは、実家に戻らなければならない。 それは考えなければならない現実だった。
人工呼吸器を付け、目を閉じたままの父親のベッドの傍に近づく。

大きいと思っていた父親が、不意にとてもか弱く、華奢に見えた。
これが、自分をいつも見守ってくれていた人、大きな手で、いつも優しく包んでくれた人。

涙が零れた。

老いた父親、いつまでも、ずっと居てくれると思っていたその存在が、
実は、歳と共に、いつ去っていってもおかしくないほどに、年老いていた現実に思わず涙した。

「お父さん・・・・。」

泣き崩れるように、父親が眠っているベッドの脇に跪くと、後ろから優しく何かに包まれた。

「大丈夫よ、大丈夫・・・・。 お父さん、すぐに目を覚ますわよ。」

背中を包まれた母親の温もりはとても暖かく、その懐かしさと優しさに涙が溢れて止まらなかった。


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