『めぐり逢えたら -最終部-』
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【エピローグ】

朋美に全ての想いを告げたあの日から、1週間後、朋美は退院した。
私が朋美の病室を訪れてからその後、滝川さんの姿を病院で見ることはなかった。

それから、さらに1ヶ月すぎたある日金曜日、休みを取って
元勤めていた会社に向かい、夕方に滝川さんを訪ねた。

「そろそろ来ると思っていたわ。」

夕日が見える屋上に登り、金網のフェンスの前に、2人並んで立っていた。

「滝川さん・・・、どうして、あの時あんな事を。」

私は正直少し怒っていた。

滝川さんに病院に呼ばれたあの日、病院の外で言われた言葉。

“朋美は胃ガンで、もう時間がない。”

「いくら滝川さんでも、あれは酷いです。
言って良いことと、悪い事とがあります!!」

わたしはキツイ口調で、滝川さんに言い放った。

「何の事かしら?」

沈む夕日を見ながら、滝川さんは惚けていた。

「朋美が・・・、朋美が、癌だなんて、どこからそんな話が!!」

朋美が入院した病名、それは間違いなく胃潰瘍だった。
胃潰瘍による、栄養失調と貧血の合わせ技。

だから、手術などする必要はなく、ただ、ゆっくりと養生し、
点滴で栄養を補給していたのだ。

「どうして、あんな嘘を言ったんですか??」

「そうね・・・、でも、嘘を突いたのは、あなたが先ではないかしら?」

「えっ・・・。」

「あなたが、結婚すると私に連絡してきた後に、もう一度話を聞こうとおもって実家にお電話したの。
 その時、あなたのお母様が出られて。
 結婚おめでとうございますといったら、何の事ですか?と言われたわ。」

「あっ・・・。」

「見合いをした事は本当、結婚を前提につき合ったことも本当、
でも、結婚を決める寸前に、相手の恋人の妊娠が発覚。 そうだったわよね?」

「全部・・・、全部知っていたんですか・・・。」

「えぇ、知っていたわ。
そして、あなたが、そこまでして、朋美を自分から諦めさせようとしていたかも。」

「っ・・・。」

「あなたのそこまで頑なに決めた決意を変えることは難しい。
かといって、朋美が、あなたを忘れるつもりなら、私は容赦なく朋美を奪ったわ。
でも・・・。」

「でも?」

「朋美は、ずっとあなたからもらった懐中時計を握りしめ、毎日、毎日
あなたを想っていたわ。」

「朋美が・・・。」

「あの日、朋美が入院して、朋美があなたを呼んだ。
だから、私はあなたを試したかった。」

「試す??」

「想い人が死に直面したとき、最愛の人に残された時間がわずかだと知った時、
それでも、あなたが、離れることを選ぶのかどうかを。」

「滝川さん・・・。」

「早川さん、これだけは覚えていなさい。

これからの人生、今回のような選択を迫られることがあるわ。

あなたが、どうしても選ばなければならない苦しい選択を。

その時、あなたが、本当に選ぶべきものは何なのか。
本当に大切なものは、失ってからでは取り返しがつかないこと。
そして、他に選択の道はないのかを、最後まで諦めずに考えること。

それと・・・。」

「それと??」

「想う人が、幸せになるには、
 その人の想う人が、そばに居なければ、叶うことがないことを。」

「滝川さん・・・。」


「そう言うこと。 それじゃ、私はまだ仕事があるから。」

「滝川さん!!」

「なに??」

「ありがとうございました。本当に。」

背を向けて、立ち去ろうとする滝川さんが、ふと足を止める。

「早川さん。」

「はい?」

「今度、朋美を置いておくような事をしたら、次はもう手加減しないわよ。」

「は、はいっ。」

滝川さんは、そのまま振り返らず去っていった。

私はやはり、あの人に憧れる。
懐の深さと、強さに。

昔、朋美が、あの人の事を好きになった事が解る気がする。

私も、もし、朋美に出会っていなければ、あの人に恋したかもしれない。

けれど、私は、朋美にめぐり逢った。

たとえ、また違った世界に生まれても、きっと朋美を探すだろう。

そして、朋美とめぐり逢えたら・・・、またきっと恋に落ちるだろう。


屋上の空を見上げる。
何度、この空を朋美と見上げただろう。

もう離れることはしない。

あれから、私は実家近くのマンションに越した。
実家に何かあれば、すぐに戻れる距離に。

私が再び実家から出る事になったのは、
父親と母親、両方の希望だった。

実家で甘えるな、自分の人生は自分で探せ。
厳しい口調のそれが、両親の私への優しさと心遣いだった。

それから、就職先は、思ったよりも早く決まった。

縁は不思議なものだと、このとき改めて思った。

求人雑誌で、良い条件の求人を見つけ、申し込んだ。
その会社へ面接に行き、建物に入った時、、この前見合いをした社長婦人とばったり会った。
その会社は、社長婦人の取引相手の1つだった。

結婚を破棄された後、社長夫人と会う事は無かったけれど、
一方的に破棄したことに、夫人はかなり罪悪感を持っていたらしい。

当初は慰謝料を払うとまで行っていたが、それは丁重にお断りした。
私だって、下心があった見合いなのだから。

結局その会社には、社長婦人からの強い後押しが入り、すんなり決まった。


そして、再度新しい生活が始まった。

ここ数ヶ月で激しく起きた出来事を思い返す。
そして、懐かしむように、空を見上げていると、ふと、携帯が鳴った。

「もしもし?」

「和美? 今どこにいるの?」

あれから朋美は、変わらず会社に勤めている。
住んでいるところも変わっていない。

けれど、週末には、お互いがどちらかの部屋に泊まりに行く。
前のように、すぐ近くには居られないけれど、
けれど、心はいつも繋がっている。

「今、ちょっと思い出に浸っていた所。」

「えっ??」

「なんでもない。 もうすぐそっちへ行くから。何か欲しいものない?」

「せっかっく午後休んで料理頑張ったんだから、とにかく早く帰ってきて。」

「わかった。 あっ、朋美、」

「なに?」

「愛してる。」

「和美・・・、私も。」




携帯を切って、空を見上げる。
今度こそ、もう見ることがない景色に思いを馳せ、朋美が待つ部屋に帰ろう。


一緒にすごせる時は、限られているけれど、

限られた時間の全て、一緒にいよう。

たとえ離れても、必ず側に行くから。

次の世に生まれ変わっても、きっとまた見つけだす。

そして、めぐり逢えたら・・・、出会ったその瞬間に、きっとまた恋に落ちる。


                                                     〜 END 〜

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