『めぐり逢えたら -最終部-』
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【和美Side37】

のんびりと過ごしていたある日、実家に1本の私宛の電話が掛かってきた。

「早川さん?」

「た、滝川さん??」

もう逢うことも、話すこともないと思っていた滝川さんからの電話。

「突然ですね、用件は何ですか?」

「手短に話すわ。」

「はい。」

「朋美が入院して、病状は深刻なの。」

「えっ??」

「朋美から、強くお願いされたのよ。 あなたに逢わせて欲しいと。」

「と、朋美が??」

「朋美には、あなたが結婚することは伝えてあるわ。」

「しかし・・・。」

「朋美は・・・、もう時間がないのよ。」

「えっ??」

「詳しくは、病院で話をするわ。 来てくれるわね。」

「解りました。」

朋美に時間がない?
その滝川さんの一言で、妙な胸騒ぎがする。

朋美の身に一体なにが??

次の日の夕方、朋美の入院している病院で、滝川さんと待ち合わせた。
待合室に行くと、滝川さんが長椅子に座っていた。

「ご無沙汰しています。」

「久しぶりね。」

「朋美の具合は??」

「その前に、少し話があるの。」

そういって、病院の外出る滝川さんに後についていった。

「朋美の様子がおかしくなったのは、あなたが去ってしばらくしてからだったわ。」

「えっ?」

「胃の調子が良くないと言っていて、それから眩暈がするようになったと。」

「朋美は、朋美が入院した理由はなんなんですか??」

「朋美は・・・、癌よ。」

えっ・・・。

滝川さんが一瞬何を言ったのか解らなかった。

「今、なんと・・・。」

「朋美は胃ガンよ。 若いから進行が早いわ。」

「そ、そんな・・・。」

目の前が一瞬にして真っ暗になる。 朋美が? 朋美が癌??

どうして、どうして朋美が?? どうして??

頭の中を答えがでない問いが、頭の中をぐるぐると回っていると、
ふと、顔をそらして滝川さんが呟いた。

「もし、シラノとロクサーヌの立場が逆だったら、シラノはどうするのかしらね。」

「なんの話ですか??」

「命が絶えるのが、シラノではなく、ロクサーヌだったら、
シラノの腕の中で、ロクサーヌが眠るように絶命するとしたら、
シラノは想いを告げず、寄せられるロクサーヌの想いを拒絶したかしら?」

「は?」

こんな時に、一体何を言っているのだろう。
その直後、滝川さんの表情が一段と厳しくなった。

「朋美に頼まれたからあなたを呼んだけれど、今から言うことを良く聞いて。」

「なんですか?」

「朋美の気持ちに応えるつもりがないなら、このまま帰りなさい。」

「な、何を一体!!」

「朋美は、あなたと逢いたがっているけれど、あなたは結婚するのでしょう?
これ以上、あの子を傷つけたくないの。 いま、あなたに逢えば、あの子は苦しむわ。」

「し、しかし!!」

「それに、この1ヶ月、朋美が少しずつ私の事を見てくれるようになった今、
あなたに、朋美の前に出てもらうのは、目障りなのよ。」

そう言葉を吐き捨てた滝川さんは、鋭く尖った視線で、私を睨み付けた。

「えっ・・・。」

「あなたは、朋美を私に託したのでしょう?
だったら、今になって朋美の前に、のこのこ顔を出して欲しくないのよ!!」

滝川さんの本心がの胸に突き刺さる。
病院に入院していることを伝えてきたのは、滝川さん。

そして、今目の前で帰れと凄んでいるのも、同じ滝川さんだった。

「朋美は、まだあなたの事を忘れていない。 あなただけを想ってる。
朋美は、もう助からないわ。 もう残された時間もわずか。
その朋美の想いに応えるつもりがないのなら、帰りなさいっ!!」

鋭い視線を突きつけられた。

朋美の時間は残り少ない。
朋美が・・・、朋美が!!
どうして、どうして、朋美が!!

こんなことなら・・・、こんなことなら、朋美の想いを、私の想いを・・・。
この瞬間、さっき滝川さんが呟いた言葉の意味を理解した。

立場が逆転したシラノとロクサーヌ。 ならば私は・・・。

滝川さんに返事をしないまま、私は朋美の病室へ向かった。


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