『めぐり逢えたら -最終部-』
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【和美Side36】

その週末、生まれて初めての見合いをした。

別に元々乗り気にする見合いじゃないので、服装もそこそこ、スーツ程度。
指定されたホテルの個室に入ると、苦手な和室だった。

よくテレビでみるような、くだらないやりとりが始まる。

仲人と呼ばれる人が、双方の家を紹介し、家族構成、本人の経歴まで
勝手に話をしてくれる。

今回の見合いの言い出しっぺである社長夫人は、いかにもそういった感じで
控えめそうで、でも着ているものは、高価なもので、穏やかに
こちらの内側をのぞき込もうとしている感じ。

当の見合い相手の彼は、長身で、爽やか系の好青年。
これだけのルックスで、良くいままで結婚しなかったもんだと思うほど。
仲人がベラベラ喋っている間も、爽やかな笑顔を浮かべている彼は
初めて会ったけれど、そう悪い感じはせず、寧ろ好印象だった。

それから、両親が、形式的な質問を交わし、
当たり障りのない返事をした。

目の前に、それらしい懐石料理が並べられても、とても手をつける気にもならなかった。
見合いというのは、本人が乗り気でないと、こうも退屈なものなのかと思う。

やっと、テレビドラマのお約束言葉が出てくる。

「それじゃ、あとは若い人同士で、ゆっくりどうぞ。」

相手のお母さん、そしてこっちの伯母さん、そして仲人さんが席を外し、
少し広い座敷に2人きりになった。

このまま、爽やかな笑顔で会話が続くかと思いきや、突然相手の表情が変わった。

「今日は、すみません。
母が無理な見合いをお願いした為に、堅苦しい席にお付き合いしてもらって。」

「はぁ?」

「すみません、もうこういった見合いを何度もしているもので。
僕が未だに首を縦に振らないから。」

「あなたは、どうしてこんな見合いにつき合っているので?」

「母が勝手にしている事で、何度も断っているんですが・・・。」

「はぁ・・・。」

「すみません、僕、想う相手がいるんです。」

「はぁ?」

「何度も、母にそう言っているんですが、猛烈に反対されていまして。
その当てつけに、見合い話を次ぎから次へと・・・。」

「彼女はなんと?」

「もう私の事を忘れて欲しいと言われています。 けれど、僕は彼女と別れる事は考えられない。」

フフッ・・・。

想わず笑みがこぼれる。

「どうかされましたか?」

「私たち、気が合いそうですね。」

「はぁっ?」

「私も、ずっと想う人がいるんです。 忘れられない人が・・・。」

「えっ??」

「結婚前提につき合いませんか?
あなたは、私を隠れ蓑にして、彼女とつき合いを続ければいい。 私は自由にしますから。」

「そ、それは・・・。」

「改めて自己紹介します。 早川 和美です。」


そして、見合い話は急速に進められていった。

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