『めぐり逢えたら -最終部-』
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【朋美Side32】

部屋が暗くなっても、身体を動かすことが出来ずにいた。
鞄から、和美からもらった懐中時計を取り出し、握りしめていた。

ふと、携帯が鳴り響いていることに気がつく。

けれど、とても出る気にならない。
鳴り響く電話の相手が、和美であるはずが無いのだから。

そのまま目を閉じる。
せめて、夢の中で幸せだった、和美との思い出に浸りたかった。


ピンピーン ピーンポーン

知らない間に眠っていた。
チャイムの音が鳴り響いている。

和美? 和美が戻ってきてくれた??

朦朧と立ち上がり、玄関のドアから、レンズ越しに外を見た。

和美では無かった。

そのまま出る気がせず、ドアから離れようとしたとき、
うるさいほどに、またチャイムを鳴らされる。

仕方ないので、ドアを開けた。

「朋美、何度も電話したのよ?」

玄関先に立っていたのは、滝川さんだった。

「すみません・・・、ちょっと寝ていたもので。」

「と、朋美!! その顔は、どうしたの!!」

よっぽど酷い顔をしているのか、玄関先で、滝川さんが驚いて立ちつくしている。

「すみません、近所に目立つので、とりあえず部屋に入って貰えますか。」

不本意ではあったけれど、近所に会話が筒抜けになる玄関では
これ以上話しは出来なかった。

もう日が落ちて長い時間経っているのに、部屋に電気がついていない事に
滝川さんが気づく。

慌てて電気をつけ、窓のカーテンを全て閉める。

長い時間放置された珈琲カップを片づけ、リビングに滝川さんを通した。

「構わないで、長居はしないから。」

珈琲の支度をしようとした時、滝川さんにそれを止められる。

「それよりも、少し話をしたいのだけど。」

よろつきながら、リビングへ戻る。

「なんですか。」

ソファーに座り、滝川さんに目を合わさず、無愛想に言葉を口にした。

「早川さんとは逢ったの?」

和美の名前を耳にした途端、さっきまで出る事の無かった涙が溢れ出した。

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