『めぐり逢えたら -最終部-』
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【和美Side31】

電車を乗り継ぎ、会社から離れ、あまり知らない駅にたどり着く。
ここに来たのは、久しぶりで、最近では朋美のお見舞いに来た以来だった。

マンションのエントランスを通りすぎ、エレベータに乗る。
会社からここに来るまでに30分ほど時間がかかったが、
その間、私たちは会話を交わすことは無かった。

和美がドアの鍵を開ける。

「どうぞ。」

朋美の部屋に向かってから、初めて発したその声に、一瞬動揺する。

「お、お邪魔します。」

朋美の部屋を訪ねたのは、どのくらい振りか思い出せない。

「適当に座って、今お茶入れるから。」

「そんなに構わないで。」

私の言葉を聞かず、朋美はキッチンへ向かう。
私はリビングに入り、並べられているソファーの片隅に座った。

部屋の中は静かすぎる。

キッチンでシューと音を上げる薬缶と、朋美が取り出す食器の音がやけに響く。

カチャカチャと音を鳴らしながら、朋美がリビングに戻ってきた。

「珈琲しかないけど、どうぞ。」

「ありがとう。」

早速運ばれた珈琲を一口飲み干す。
さっき昼に飲んだドリンクバーの珈琲よりも味が格段に美味しかった。

朋美は、角隣りの位置に座る。
静かに、珈琲カップを手にして、朋美は珈琲を一口飲み干した。

奇妙な沈黙が続く。

どうして、来てしまったのだろう・・・。
今になって後悔が胸一杯に広がる。

来てはいけなかった、断るべきだった。
断る理由なんて、いくらでもあった。
なのに、断れず、この部屋に入ってしまった。

来なければ良かった。
あの日のまま、もう2度と逢わなければ良かったと、後悔を頭の中で繰り返していた。

「和美?」

突然沈黙を破り、朋美が口を開いた。

「えっ??」

「ごめんね、無理に来て貰って。」

「あっ、い、いや・・・。」

来なければ良かったと後悔しているのに、口では無意識に否定する。

「あのまま、もう2度と逢えなくなる気がして、だから、どうしても逢いたかったの。」

珈琲カップを持ったまま、朋美が俯きながら呟いた。

「あんな別れ方、どうしても嫌だったの。 ちゃんと話をしたかったから。」

「ごめん・・・。」

私の中で、あの日の別れ際、朋美を泣かせてしまった罪悪感が甦る。
ただ、一言謝る言葉しか口に出せなかった。

「あのね、私も和美に渡したかった物があったの。
それ、家に置いてきたから、今日ここに寄ってもらったの。」

そう言うと、朋美はソファーから立ち上がり、部屋の片隅に置いてある
シックなビューロに近づき、綺麗な包装紙の小さな包みを取り出した。

「これ、あの日渡そうと思っていたの。良かったら貰ってくれる?」

「あっ、ありがとう・・・。」

綺麗に放送されている小さな包みを、今ここで開けるべきなのか悩んでいると

「帰った後にでも見て。」

心を見透かされたように言われた。
この場で、受け取れないとは言えず、私はもう一度お礼を言って
それをバックの中に納めた。

また、気まずい沈黙が訪れる。
これ以上、私は朋美に何も話すことはない。

朋美も、私にこれを渡したかったのなら、もう帰るべきだ。
まだ、温かい珈琲を一気に飲み干し、腰を上げようとしたとき、
朋美が口を開いた。

「和美、私と滝川さんは、もう終わった事なの。 もう昔の事なの。
だから、もうその事を言って欲しくない。
例え、会社を辞めたからって、和美と縁が切れるなんて思ってない。
だから、私から離れるような事は、もう言わないで。」

「と、朋美・・・。」

顔を上げ、縋るような瞳で朋美が言葉を紡ぐ。

そんな瞳で見つめられたら、自分が決めた決意が音を立てて揺れ動く。
ダメだ、朋美に揺り動かされては。

「和美が実家に戻る事になった理由は解る。
でも、これから今までみたいに頻繁に逢えないからって
どうして、もう逢えないような事を言うの?
もう、2度と逢わないような事をするの??」

「そ、それは・・・。」

「何度も電話したのよ! どうして電話に出てくれないの?」

「あ、あれは、引っ越しの荷物の中に、充電器いれちゃって、
充電池が切れたから・・・。」

慌てて、電話が繋がらない理由を言い訳のように並べた。

「今でも使えないの?? もう使えるはずでしょ??」

朋美が、ものすごい気迫で攻め立てる。

「と、朋美・・・。」

たじろいでいると、突然、朋美が私の手を握った。

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