『めぐり逢えたら -最終部-』
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【和美Side30】

幻聴であって欲しかった。
逢いたくて、自分が無意識に作り出した幻聴だったら、どれだけ良かったか。

怖くて振り返れなかった。

「和美・・・。」

もう一度名前を呼ばれた。

それは、もっとも聞きたくて、呼ばれたかったけれど、
今一番逢ってはいけない愛しい人の声。

立ち止まり、ただ呆然と立ちつくすしかなかった。

コツコツと、足音が近づいてくる。

コツ。

音が止まった。

心臓がギュッと締め付けられる。

一瞬の間を置いて、突然腕を温かいものに取られた。

「ここじゃ目立つから、とりあえず外に出て。」

強引に腕を取られ、引っ張られるように会社の外へ出る。
会社の前の歩道に連れ出される。

「和美っ!」

何が起きているのか一瞬解らなかったが、呼ばれた声で、我に返る。
掴まれていた腕から手が離され、その方向を見るとそこに朋美が立って居た。

「ど、どうして・・・。」

「えっ?」

「どうして、朋美がここに?」

「和美にもう一度会いたかったから。」

それじゃ、答えになっていないと思いつつも、目の前に真剣な眼差している朋美に
目を逸らせなかった。

「少し話がしたいのだけど、いい?」

「あっ、いやっ、えっと・・・。」

「少しでいいから、話しをさせて。」

有無を言わさない気迫が朋美の中にあった。

「わ、解った・・・。」

突き刺さるような眼差しに、逆らえるはずが無かった。

「2人だけで話がしたいの。 ちょっと離れているけど、私のマンションでいい?」

「朋美、会社は?」

「午後休みを貰っているから。」

そう言うと、朋美はまっすぐ駅に向かって歩きだし、慌ててその後に付いていった。

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