『めぐり逢えたら -最終部-』
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【和美Side29】

マンションの解約手続きは、早く終わった。
マンションを出たのは、11:30。

今から会社に向かうと、丁度お昼休みとぶつかる。
会社の人と、道すがら会いたくない。

会社へ向かうのは、午後が始まってしばらくしてからの時間にしよう。
その方が、人目につかない。

マンションを出てから、すぐに会社へは向かわず、
駅近くのコンビニで雑誌を買ってから、ファミレスへ入った。
ここなら、気にせず時間をつぶせる。

ファミレスに入り、お昼を食べ、ドリンクバーであまり美味しくはない珈琲を
飲みながら雑誌を読む。

ファミレスには、子供連れのお母さん、昼休みになったOLや、学生が押し掛け
店内は一気ににぎやかになった。

普段は騒がしい雰囲気は苦手だったけれど、今はこの騒がしさが
何か気を紛らわせてくれている気がして、不快には思わなかった。

食事を終えて、惰性で珈琲を飲んでいると、少しずつ賑やかさが薄れていく。
ふと時計を見ると、13時を過ぎていた。

今から会社に向かえば、丁度13:30くらいになるだろう。
丁度言い時間だ。

席を立ち、会計を済ませて会社へ向かった。


会社の前に着くと、時計で時間をもう一度確かめる。

13:35

もう午後が始まって仕事に集中し出した時間。

入り口の受付に退職手続きに来たことを告げて、ロビーを通る。

エレベータに乗り、いつも自分が通っていたフロアではなく
総務部のフロアのボタンを押す。

タイミング良く、エレベータに乗り合わせた人は社外の人で
知り合いと顔を合わす事はなかった。

エレベータを下り、総務部のドアをくぐり、通路際の女性に声を掛けた。

「退職の手続きに来たのですが。」

「あっ、はい。 少々お待ちください。」

女性は奥の方へ向かい、退職手続きの担当の女性を呼んできた。

「営業第1課の早川和美さんですね。」

「そうです。」

「それでは、これらの書類に目を通していただき、署名捺印をお願いします。」

書類を受け取り、目を通す。
退職金の年金との分配についての手続きの物と、会社のグループ保険の解約書類。
その他、組合脱会証明書などの退職に関する書類がいくつか並べられていた。

きちんと全てに目を通し、署名して捺印をした。

「ご苦労様です。 これで、書類の手続きは終わりです。
あと、制服の方はよろしいでしょうか。」

クリーニングに出していた長年愛用した制服を返却する。

「お手数をおかけしました。」

一礼して、総務部を後にした。

これで終わった。もうここに来ることもない。

少しの寂しさと多くの安心が心を占めた。

1階に着き、受付に会釈をして出ようとした瞬間・・・。

「和美。」

ロビーを背にして、背後から突然声が聞こえた。

私を名前で呼ぶ人、この会社でそれは1人しかいなかった。


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