『めぐり逢えたら -最終部-』
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【朋美Side29】

滝川さんから、和美が会社にもう一度来ると言われてから、1週間があっという間に過ぎた。
結局、最初の1週間の間は、和美は姿を現さなかった。

1週間、総務の人に和美が来たら連絡くださいとお願いし続けたが、
流石に、何度も言うと、だんだん嫌そうな顔をされるようになったので、
これ以上しつこく言えなくなった。

和美の実家の住所、もしくは電話番号を、総務に聞いてみたが、
個人情報機密ということで、いくら親しい友人でも、教えられないと断られた。

その間、何度も携帯に電話をしたが、いつも、電源が切れているメッセージが流れる。
これでは、メールをいれても同じだと思い、メールは出さなかった。

メールなんかで書けるような物じゃない。
直に声を聞いて、直接和美と話をしなければ意味がない。

今週こそ、和美は会社に来るのではないか。

そんな期待と不安が入り交じりながら、週明けの月曜日会社に出勤した。

仕事をしながらも、どこか総務から連絡が来るのでは、と心の中で密かに期待する。
先週一週間、裏切られ続けたにも関わらず、やはり、今日も待ちわびる。

期待虚しくもうすぐ昼のチャイムが鳴ろうとした時、
内線電話が鳴り響く。

「はい、営業2課です。」

「松下さんかしら?」

その声は、同じフロアにいるはずの滝川さん。

滝川さんの席に向かって背を向けている滝川さんの姿と表情が確認できない。
仕方ないので、周りに気づかれないように、普通の対応を返す。

「はいそうですが、どのようなご用件でしょうか。」

「今日の午後、早川さんが総務に来るそうよ。」

「えっ?? ど、どうして知っているんですか??」

普段の対応を忘れ、思わず電話に喰ってかかる。

「さっき、総務に早川さんから連絡があったそうよ。」

「どうして、私にそれを・・・。」

「あとは、自分で話をつける。
今日を逃すと、もう逢えないわよ。」

ブツン。

そう言い残して、滝川さんの電話は切れた。

受話器を持ったまま、振り返って滝川さんを見ると、
席には、その姿が無かった。

もうすぐチャイムが鳴るというところで、席を立ち上がり、
課長に言う。

「すみません!! 急用が出来たので、午後休みます。」

課長は、何が起きたか一瞬解らないまま、あ、あぁ、と頷いた。

同時にチャイムが鳴る。
パソコンのを終了させ、電源が落ちるわずかな時間も惜しみながら、
引き出しにいれている自分の荷物をつかみ取り、電源が落ちたと同時に
自分の行き先予定表の所に、PM年 と書き残し職場を飛び出した。

和美が今日会社に来る。

これを逃したらもうチャンスは無い。

午後ということは、総務も外す昼休みに来ることはない。

会社を出てから近くのコンビニで雑誌を買う。
その足で、会社の向かいに位置するコーヒーショップの窓側に座る。
自分だったら、もし自分が会社を辞めた後、あまり気づかれずに
会社に入るとしたら、何時頃に来るのかを考えてみる。

昼休みの直後は、まだバタつく。
かといって、15時前後になると、一服休憩を取る人が出て来だす。

その後は、仕事によって、出歩く人が多くなる。

だとすると、一番仕事に集中する時間帯は、13:30〜14:30の間。

この時間が一番可能性が高いと判断する。

午後に来るということは、おそらく午前中は違う用事を済ませているんだろう。
マンションの解約手続きをしているのかもしれない。

その後、外で昼食を取ったことを考えても、時間帯はおそらくそのくらいになるはず。

コーヒーショップで、小さいクロワッサンを頬張りながら、
雑誌を読む振りをしてじっと窓の外を見ていた。

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