『めぐり逢えたら -最終部-』
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【和美Side27】

伯父さんから形だけの見合いの話を了承した日の夜、さっそく日取りが決まったと連絡があった。
昨日の今日だというのに、もう日取りが決まったのだから、よほど急いでいるのか。

しかも、よりによって、来週の日曜日。
1週間後だなんて、ちょっと早すぎるとは思うけれど、どうせ断るのだから早いほうがいい。
嫌な物はさっさと片づけて、新しい仕事も見つけなければ。

でも、その前に・・・。

もう一度会社へ行かなければならない。
それに、マンションの解約の話を管理人さんと話すことも残っている。

いずれにしても、もう一度、会社へ行かなければならない。
和美と顔さえ合わさなければいい。

就業中、そっと総務に顔を出せば済むこと。
そうだ、考えすぎだ、気にしすぎだと、自分を諫める。

これも、早く終わらせてしまおう。

そう心に決めて、週明けの月曜、つまり明日会社に行く事を決めた。

まずマンションへ行き、解約手続きを全て終わらせよう。
それから、昼休みが終わって仕事が始まった頃を見計らって会社へ行こう。

それで全て終わり。
もう、あの地に行く事もない。

一回で全てが済むように、荷物を念入りに用意をする。
一つでも忘れたら、いずれの手続きも終わらない。

ふと、荷物を用意しているときに、充電しっぱなしの携帯が目に入る。

結局、引っ越しをしてから一度も電源を入れていない。

見るのが怖かった。

朋美から何かメールが入っていたら・・・、留守電に朋美の声が入っていたら・・・。

離れると決めた決意が変わることはなくても、朋美を彷彿させる何かに触れてしまったら
穏やかに納得させた心が、どこか波立つような気がして、怖くて見れなかった。

この携帯も・・・。

これをきっかけに、携帯も新機種に変えると同時に、番号を新しくする事を決める。

実家の住所に電話番号は、教えていない。
これで、携帯を変えてしまえば・・・。

これで、連絡を絶てる。

決意しながらも、心の片隅で、長年の思いの歪みが、微かに悲鳴を上げていることを感じた。

もうしばらくの我慢。

1年・・・、いや、一ヶ月経てば、この想いは、少しずつ懐かしさに変わっていく。

苦しく哀しい想いではなく、
切なくても、少し温かい、懐かしい思い出に変わり行く。

だから、今逢ってはいけない。

少しずつ治り始めた傷口を開いてはいけない。

携帯を充電器から外し、鞄の中に投げ込んだ。

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