『めぐり逢えたら -最終部-』
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【朋美Side28】

隣りに断りもなく座る滝川さんに少し腹が立つ。
そこは、和美の場所、あなたがいる場所じゃない。

言いたい言葉が喉の際まで出ているけれど、声にはできなかった。
その変わり、せめてもの抵抗とばかり、私は無言を通した。

「少し話をしても良いかしら。」

勝手に話を切り出すことにさえ、少し苛立つ。
けれど、よくよく考えれば、滝川さんは悪くない。

「何でしょうか・・・。」

苛立つ想いを自分に言い聞かせ、微かに答えを返す。

「早川さんとは、ちゃんと話をしたのかしら?」

押さえていた苛立ちが、滝川さんの一言で一気に決壊する。

「あ、あなたに、あなたにそれを答える義務はありません!!」

思わず立ち上がり、睨み付けるように言葉を吐き出す。

「ふぅ〜・・・。 そう、その様子だと話をしたようね。
私にした話と同じ話しをあなたに・・・。」

「な、何を言っているんですか!!」

「最後の夜、あなた、早川さんと話をしたのでしょう??」

「それが、それがどうだって言うんですかっ!!」

「その前の日、早川さんに呼び出されたのよ。」

「えぇぇっ?? な、なんで!!」

「話があるって、呼び出されて、私のホテルのラウンジで話をしたわ。」

「なにを、和美と何を話ししたんですかっ!!」

最後のあの食事の前日に、和美が滝川さんを呼び出していた??
何を、一体何を話す為に??

「解らない? 早川さんが、私に一体何をいったのか。」

「だから、何を話ししたんですか!! 解らないから聞いているんですっ!!」

「本当に解らない? あなた、最後の夜、早川さんに何か言われたんじゃない?」

はっ!!
あの日の夜、食事の後にBarで和美に言われた言葉・・・・。
思い出したくないのに、一瞬にして、その時の和美の言葉が脳裏にリフレインする。


“朋美、私はもう朋美のそばに居て上げられない。”

“朋美、滝川さんはいい人だよ。
今でも、本当に、朋美の事を大切に想ってる。“

“滝川さんが、これからは、側にいてくれるから。”

“滝川さんが、これからは、側にいてくれるから。
朋美に好きな人がいるのは知ってる。
でも、ほんの少しでもいいから、滝川さんの事、気に掛けて欲しい。“

和美が私に最後に残した言葉。
これが、和美の本心であり、願いであるなら、当然・・・。

「ま、まさか・・・、和美は滝川さんに、私の事を??」

「やっぱり、あなたも早川さんに言われたのね。 私のことを。」

「くっ・・・。 滝川さんは・・・、和美に何を言われたんですか・・・?」

「あなたの、朋美の側にいて、支えて欲しいって言われたわ。」

ぐっと、拳を握りしめる。
和美は、滝川さんにまで、私のことを託している。

和美、どうして、どうしてそんな事をするの?
私の気持ちは、どうだっていいの?

私は、和美のことが好きなのに、和美は知らないで、それを踏みにじるの?

私の気持ちは、私の想いは、どこに行けばいいの?

悔しくて、哀しくて涙が込み上げる。

「早川さんは、最低でもあと1回、会社に来るわ。」

ぐっと黙り込んでいる私を見かねて、滝川さんが静かに呟いた。

「えっ??」

「退職の手続き上、もう一度彼女は会社に来る必要があるの。」

「い、いつ、いつですか!!」

「それは、私でも解らないわ・・・。 ただ・・・。」

「ただ??」

「私も彼女と話がまだ残っているのよ・・・。」

そう言うと、滝川さんは静かに立ち上がって、その場を後にした。


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