『めぐり逢えたら -最終部-』
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【朋美Side26】

結局、駅に1時間半足止めをされた。

タクシーを待つよりも、結局電車の方が早く復旧した。

電車に乗りながら、心の中で焦る。

胸の中がざわつく、嫌な汗が背中から吹き出る。

早く、早く和美のところへ。


和美のマンションの最寄り駅に着き、飛び出すように改札を後にする。

走った。
急がなければ、何かとりかえしにつかなくなる気がして。

滅多に激しい運動をしない心臓が暴れ出し、悲鳴を上げる。

それでも、それでも走った。

マンションの前にたどり着き、息がとぎれとぎれでエレベータのボタンを押す。

早く、一秒も惜しい。

エレベータ待つ間、携帯を取り出し、和美の番号に掛けるが、
やはり先ほどと同じメッセージが流れる。

エレベータのドアをもどかしく思いながらも、和美のいるフロアへ着き、
走って、和美のマンションのドアの前に立ち、ブザーを鳴らす。

ブ─────ッ

何も音がしない。
ドアの向こうに、誰もいない空気を感じる。

和美?? いないの??

ブ─────ッ
ブ─────ッ、ブ─────ッ、ブ─────ッ、ブ─────ッ

焦る気持ちで、ブザーを何度も、何度も押す。

けれど、ドアの向こうから、何一つ物音はしなかった。

出かけてるだけ?

すがりつくようにドアに額を付ける。

和美、どこにいるの?

身体を起こし、ドアから離れた時、背後から突然声をかけられた。

「あらっ?」

振り返ると、そこには、50代と思われる、品の良い女性が立っていた。

「早川さんの、お友達かしら?」

「あっ、えっ、えぇ、そうです。」

「あら、ちょっと遅かったのね。 早川さん、もう引っ越されたわよ。」

「えっ?!」

「今日の午後には、荷物を運び出すっておっしゃっていたわ。
 すでに、合い鍵を一つ返してもらっているの。」

その女性は、そのマンションの管理人だと名乗った。

「か、和美、いえ、早川さんは、もう戻られないのですか??」

「敷金の返却金額の査定とかがあるから、また来られるとは思うけれど。
 でも、何時来られるのかは聞いていないのよねぇ。
 まぁ、来てもそう長い時間はいないとは思うんですけどね。」

「そ、そうなんですか・・・。」

「早川さんと今度逢った時に、お友達が訪ねに来られてきた事、伝えておきますね。」

「あっ、はい・・・。 すみません・・・・、失礼します・・・。」

管理人さんに軽く挨拶をして、和美のマンションを後にした。


こんなに早く引っ越すとは思わなかった。
引っ越しの準備が、こんなに早く終わるとは思わなかった。

ま、まさかっ!!

和美は、最初からこのつもりで・・・。

最初から、翌日に引き払うことを決めていて、
昨日の夜、私にあんな事を言った??

携帯が切られている以上、連絡のしようがない。
昨日、実家の住所と電話番号を聞こうと思っていたが、聞く間がなかった。

この前、突然居なくなった時は、あとで会社で会えると解っていた。

けれど、今日は・・・、
本当に、私は和美がどこにいるか、解らなかった。

来る途中の胸騒ぎ、背筋に吹き出た嫌な汗、全てはこの予感だった。

このまま、もう二度と逢えなくなるのでは・・・。


「朋美、私はもう朋美のそばに居て上げられない。」

「朋美、滝川さんはいい人だよ。
今でも、本当に、朋美の事を大切に想ってる。」

「滝川さんが、これからは、側にいてくれるから。」

昨日、真剣な声で和美が語った言葉。

この言葉が、これだけの重みがあった事に、今になって初めて気が付いてしまった。

そして、全てが遅かった。

ここに来たのも、和美の言葉の意味に気づいたことも。

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