『めぐり逢えたら -最終部-』
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【朋美Side25】

そういえば・・・。

回らない頭で、昨日の記憶が微か甦る。
確か、和美に何か貰ったような・・・。

身体に何か巻き付いているような、重い身体を起こし、昨日の荷物を見る。

自分の鞄の隣りに、小箱が入った小さな手提げがあることに気が付いた。
手に取り、テーブルの上に置く。

どこかで見たような・・・。

重い頭を必死で回転させて思い出す。

!?!っ

思い出した。

これは、クリスマスに和美の部屋で見かけた物。
小箱が入った小さな手提げ、そして、捨てられた手紙。

頭痛が一瞬遠のき、意識が覚醒する。

これは、和美が長年想い続けた相手に渡すはずだった物ではないのか。
なのに、どうして、和美はこれを私に??

私にくれるのであれば、どうしてクリスマスの日に渡してくれなかった??
これは、渡せなかった和美の想い人の物ではないの?

腹が立った。
和美が、そんなに無神経な事をするとは思わなかった。

酷い、酷すぎる。

怒りが込み上げて、思わず手提げを投げ捨てた。

??

投げた手提げから、封筒が飛び出していた。

何??

恐る恐る封筒に手をかけると、便箋が1枚入っていた。


  松下 朋美様

  長い間、本当にありがとう。
  朋美がこの手紙を読む時、きっと、気まずくなって別れた後だと思う。

  無神経な事を言ったと思う。酷い事を言ったかもしれない。
  私の事を、怒っても、嫌ってもいい。

  でも、私が最後に話した事、落ち着いた時にでも思い出して欲しい。

  ここを離れる事になって、私がそのことを知ってる事を、話し終えた後だと思う。
  これは、クリスマスに私そびれた物なんだけど、改めてこれを贈ります。
  つまらないものだけど、良かったら持っていてください。

  今まで、本当にありがとう。

  いつか、想いが届くこと、幸せになることを心から願って。

                                       早川 和美


”いつか、想いが届くこと、幸せになることを心から願って”

そう書かれて、無造作に折って捨てられていたクリスマスカード。

あれは、私にあてた言葉??

これは、初めから私のために用意してくれたもの??

慌てて、手提げを拾い、包装された小箱を開く。
そこには、綺麗に装飾された、美しい銀の懐中時計が入っていた。

和美、どうしてこれを私に??

蓋を開けると、裏に何かメッセージと名前が彫り込まれている。

これは、フランス語?

フランス語は良く解らないけれど、文字の綴りを見る限り、
そのメッセージは、私たちの事を指している訳ではなかった。

おそらく、時計のデザインとして、名文句かなにかを彫り込んであるのだろう。

けれど、もしかしたら、この文面に何か意味がある?

そう思ったけれど、フランス語なので何が書いてあるのか解らなかった。

和美、これは今までのお礼を込めた物なの?
それとも、それ以外に、何か意味があるものなの??

和美に連絡できない今、この問いに答えてくれる人は誰もいなかった。

何か胸騒ぎがする。

なんだか解らないけれど、和美に、今聞かなければいけない事があるような気がする。

立ち上がり、携帯を鞄から慌てて取り出し、和美の携帯に電話を掛ける。

“ただいまおかけになった電話は、電源が入っていないか、
電波の届かないところにあります。 もうしばらくしてから、お掛け直し下さい。“

電話が切られている。

立ち上がり、頭痛など気にせず、支度を始める。

和美に会って、もう一度話しがしたい。

時計が午後1時を過ぎた頃、部屋を後にした。


駅で電車を待つ。

“ただいま○○方面にて人身事故があり、電車が全面的に止まっております。
復旧の目処は、立っていませんが、しばらくおまちください。”


なんてことだ、こんな時に電車が動いていない。

胸騒ぎが一段と大きくなる。

駅を諦め、タクシー乗り場に移動する。
この際、タクシー代は問題にならなかった。

ところが、すでに、同じ考えの人の列が長く連なっていた。

どこくらいかかるか解らない。 けれど、タクシーが来るのが速いか、
電車が復旧するのが速いか、とにかく早く交通手段ができることを、ひたすら祈り続けた。

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