『めぐり逢えたら -最終部-』
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【朋美Side22】

次に和美に連れられたお店は、隣りの高層ビルの屋上の落ち着いたBarだった。

「私は、ミモザ、和美は?」

「私は、マティーニ。」

店内は暗く落ち着いているけれど、客の数は多く、カウンター席のみが空いていた。
案内されたカウンターに2人で横に並ぶ。
さっき、向かい合わせでいた時よりも、どこか距離が近くなった気がした。

何を話したらいいのか、何を言えばいいのか・・・、
正直、何をいっても、悲しくなるような、切なくなるような気がして
何も言えなかった。

「朋美、あのね・・・。」

言葉に詰まっていた時、和美が先に口を開いた。

「なに?」

「滝川さんから、話は聞いたんだけど・・・。」

背筋が一瞬にして、凍り付いた。
会社に居る間、和美の態度が、いつもと何も変わらなかったから忘れていた。

和美には、全てを知られてしまった事を・・・。

「全部、聞いたんだよね・・・。」

知らず知らずグラスに触れている指が震える。
この後、何を言われるのだろうかと。

「あのね、話しは聞いたんだけど、それを聞いても、私は何も思ってないから。」

「えっ??」

和美が言ってる言葉の意味が分からなかった。

「和美と、滝川さんが、昔つき合っていた事。」

「うん・・・。」

「知らなかったから、少し驚いただけ。
 でも、そのことを、私は別になにも思っていないから。」

「か、和美は!!」

「えっ?」

「か、和美は、そ、その・・、気持ち悪いとか・・・、変だとか・・・
 そんな風に思ってないの?」

「えっ? 何が?」

「だ、だから・・・、そ、その、私と滝川さんは、同じ女性で・・・。」

「あぁ、そのこと。 そんな気持ち悪いとか、そんな事を思う訳ないじゃない。」

「えっ?」

「朋美は、朋美でしょ? だから、変に思う訳ないじゃない。」

「あ、ありがとう・・・。」

和美は、私がゲイ(同性愛者)であることを、何も思っていなかった。
良かった・・・。軽蔑されるかと思っていたから、嫌悪されると思っていたから。
ずっと、ずっと、知られるのが怖かった。
和美が、私の事を嫌い、離れていってしまうことが。

自然と涙が溢れ出していた。
拭っても拭っても、指の間から涙がこぼれ、指の間から手を伝って流れた。

「あのね、私、朋美に黙っていた事があるの。」

「っ、えっ??」

慌ててハンカチで涙を押さえていると、和美が言葉を続けていた。
顔を上げ、その横顔を見ると、さっきまでの穏やかな表情とは正反対の
とても悲しいような、何かを我慢しているような、とても辛そうな顔をしていた。

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