『めぐり逢えたら -最終部-』 |
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【朋美Side20】 この時間が来てしまった。 和美と2人でいられるのは嬉しい。 けれど、今夜が過ぎてしまったら・・・ 明日からは・・・ そう考えるだけで胸が苦しい。 和美は、まだ色々と挨拶回りをしているだろうか。 更衣室での待ち合わせの時間から、10分が過ぎていた。 もう、朝にここで朋美と挨拶を交わすことがないと思うと、涙がうっすらと浮かんだ。 和美のロッカーの前に立ち、ロッカーに書かれた、“早川和美”の名前を、そっと指でなぞる。 もう、来週にはこの名前も外される。 まるで、和美がここにいなかったように、和美の存在が消えて行く。 会社だけではない。 逢えない日々が長くなれば、和美の中の私も消えてしまうのだろうか・・・。 そんな不安に捕らえられていると、不意に、更衣室のドアが開く音がした。 慌てて、和美のロッカーから一歩下がると、背後から声がした。 「ごめん、帰り際に課長に捕まっちゃって。 すっかり遅くなっちゃった。」 「うぅん、大丈夫。 もう大丈夫なの?」 「うん、大丈夫。」 「お疲れさま。」 「それじゃ、行こうか。」 「お店どこかの?」 「新宿まで出てもいい?」 「うん。それはいいけど・・・。」 「お店予約してあるから。」 「うん、それじゃ、いこっか。」 「あっ、朋美、今朝は解らなかったけど、今日はなんか・・・。」 「ん??」 「いや、今日は随分お洒落だなって思って。 その服、とっても似合ってる。」 柔らかく微笑んだ和美からそんな事を言われると恥ずかしくなってしまう。 私も、今日は和美と最後の食事だから、服装に少し気を使った。 最後の食事じゃないけれど、もう逢えなくなる訳じゃないけれど、 だけど、何か今日は、とても大切な、とても神聖な気がして、きちんと服装に気を使った。 それを、和美が気づいてくれて、嬉しくもあり、誉められて恥ずかしかった。 最後の日なのに、朋美の手荷物は、思ったよりも少なかった。 きっと、少しずつ荷物を持って帰っていたのだろう。 きっちりとした性格の和美らしいと思った。 お店に向かう途中、和美と何か会話をしていた気がしたけれど、 何を話したのか、あまり覚えていなかった。 それほど、私は最後を意識しすぎて、余裕がなかった。 |
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