『めぐり逢えたら -最終部-』
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【和美Side23】

あれから、何を話すわけでもなく時間が過ぎ、昼休みが終わってしまった。
職場へ戻りながら、定時後に待ち合わせの時間を朋美に告げた。

席に戻り、机の中の荷物整理を始めた。
荷物を片づけながら、ふと、昼休みに朋美に言われた事を思い出した。

電話を取り、勝村さんの内線を押した。

「はい、勝村です。」

「もしもし、早川です。」

「あぁ、早川さん、久しぶり。」

「お久しぶりです。 この間、こちらにいらしていたんですね。」

「あぁ、そうそう、とんだとばっちりの出張で、酷い目にあってねぇ。
 誰かから、聞いたの?」

「あぁ、朋美から聞いたんで。」

「そうそう、あの日は、松下さんにお世話になったんだよ。
 あの時、少し松下さん調子悪そうだったけど、今は元気?」

「はい、もう元気ですよ。」

「そっか、それなら良かった。
 あっ、それで思い出した。 早川さん、会社辞めるんだって?」

「えぇ、今日で最後なんです。」

「えっ? 今日?? あっ、そっか、今月で辞めるんだっけ。 そっか・・・。」

「勝村さん・・・、色々お世話になりました。
 勝村さんには、本当になんと言っていいか・・・。」

「早川さん、もういいから。
 僕は今は幸せなんだから、だから、もう何も気にしないでいいよ。」

「ありがとうございます。」

「それより、僕は、君のことの方が心配だよ。」

「えっ?」

「僕は、君が早く幸せになることを、願っているんだから。」

「ありがとうございます。その気持ちだけで、十分です。」

「この間ね、出張の時、松下さんに仕事を手伝わせちゃって、
 そのお礼に、帰りに飲みに行ったんだけど、その時、聞かれたんだよね。」

「何を?」

「僕が、どうして君と別れたのかって。」

「えっ?!!」

「松下さんと親しいと思っていたし、話したんだけどね。」

「な、何をですか?」

「きみが、ずっと昔から好きな人がいるって事を。」

「!?!!」

「きみに、確認とらないで話して悪かったかな・・・。
 でも、松下さんも、きみの事を本当に心配していたみたいだったから・・・。」

「あっ、い、いや、いいんです。 構いませんよ、話してもらって。」

「そ、そう? だったら良かった。」

「色々お気遣いありがとうございます。」

「元気でね。 体に気を付けて。」

「はい、勝村さんも、お元気で。」

電話を切った後、しばらく放心していた。

朋美に、私が想っている人がいることを知られた。
けれど、それが誰かは知られていない。

知られていないのなら良かった。
別に、私に好きな相手がいても、おかしくはないだろう。
ただ、そのことを話していなかった事に、朋美は怒るだろうか。

けれど、朋美はその事は、何も言っていなかった。
なら別に言うこともないだろう。

結論は、特に気に留めることもないと出た所で、
自分の身の回りの片づけをしてから、職場への挨拶回りをした。

滝川さんは、今日は出張でいなかった。
けれど、言いたかった事は全て伝えてある。

他の人への挨拶をしていると、定時のチャイムが鳴り、私のこの会社生活が終わった。

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