『めぐり逢えたら -最終部-』
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【和美Side22】

最後の日の朝、いつもとは違い、久しぶりにスーツを身につける。
今日で最後の出勤。

部屋はほとんど荷物が片づき、あとは、明日業者が来れば、引っ越しができるようになっている。

出かける前に、ふと片づいた机の上に置かれた小さな手提げ袋が目に入る。

あれは、クリスマスに朋美に渡すはずだったプレゼント。
でも、重すぎる気持ちを悟られなくなくて、渡せなかった贈り物。

手提げを鞄の中に納め、玄関を後にした。

「そっか、最後だから今日はスーツなんだ。 和美のスーツ姿見るの久しぶり。」

今朝、ロッカーですでに制服に着替え終わった朋美に逢うと、スーツ姿の事を指摘され、
少し恥ずかしかった。

自分は、もう制服を総務に返す為に、クリーニングに出していたので、スーツのまま
職場へ朋美と向かった。


「今日で、早川さんが最後なので、定時後には、みんな席に着くように。」

課長が朝礼で課内に伝達する。

改めて今朝で、会社生活が最後なのだと思い知らされる。

朝礼が終わった後、仕事引継を任せた新人君に、引継資料を全て渡した。
簡単に資料の説明をした後、パソコンのデータ整理をした。

不必要なデータは消し、必要なデータは、会社のサーバへコピー、
または、メディアに落として課長に手渡した後、昼を告げるチャイムが鳴った。

「和美、お昼食べよ。」

「うん。」

いつもと同じ日常。
朋美がいて、お昼を屋上で食べる。

もう最後かと思うと、屋上へ向かう途中、少し目が霞んだ。

「今日で終わりだね。 和美が居なくなると、会社が寂しくなるなぁ。」

「最初のうちだけだよ。 そのうち慣れるって。」

「慣れるだなんて・・・。 慣れるまでには、朋美と一緒にいた時間分かかっちゃうよ。」

「そんなことないよ。」

「それ以上にかかるかも。 それくらい、一杯思い出があるから。」

「そうだね・・・。」

「そういえば、この間、勝村さんがこっちに出張できていたの。
 和美が辞めるっていったら、驚いていたわ。」

「そうなんだ・・・。 それじゃ、あとで電話してみる。」

「うん、そうして。 きっと喜ぶと思うから。」

その話題が一区切りして、沈黙が訪れる。
お互い、会社で過ごす最後の日を意識しすぎて、何も口にできない。

雲一つ無い青空の下、離れたくない未練が、心を締め付けた。

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