『めぐり逢えたら -最終部-』
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【朋美Side19】

明日は、和美が会社最後の日。
定時が過ぎた後、早々に会社を後にした。

明日、朋美に何か贈りたい。

電車に駆け込み、新宿へ向かう。

電車に乗りながら、窓の外の流れる景色を見つめながらも
脳裏に浮かぶのは、和美の顔ばかりだった。

何を贈ろう・・・。

暗くなり、ネオンで明るい街の中をさまよい歩く。

いろんな店に入り、色々なものを探す。

腕時計は、クリスマスの時に贈った。
密かに、朋美を想い人であることを、少しだけ含んだ意味で。

今回は何を贈ればいいだろう。
離れていく親友へ、長年想い続ける愛しい人への想いを込めるもの。

いくら店を回っても、自分の心と一致するものを見つけられなかった。

大きなデパートを巡り、何も成果が得られず、細い路地を入ると
アクセサリを扱っている小さな店が目に入った。

特に何も思わず、店のドアを開く。

薄暗い店内、それほど広い店ではないけれど、
宝石と思える多種多様な石が、ショーケースの中に、綺麗に並べられていた。

様々な石の輝きに目を奪われていると、不意に背後から声をかけられた。

「何かお探しですか?」

振り返ると、初老の品の良い男性が少し離れた所に立っていた。

「あっ、えっと・・・、贈り物を探していて・・・。」

「恋人にでしょうか? それとも、ご友人か何か?」

「とても大切な人が、明日で会社を辞めるので、何か贈りたくて・・・。」

恋人ではない、でも友人でもない。 大切な、心から大切に想う人。

「そうですか・・・。
 お客様、石言葉というのを、ご存じですか?」

「石言葉?」

「えぇ、花言葉と同じ様に、石言葉もあるんですよ。」

「そうですか・・・。」

「こちらの石など、いかがでしょうか?」

見せられた小粒の石は、肌色のような、薄い乳白色のピンクのような色をしていた。

「これは、何の石ですか?」

「これは、“エンジェルスキン・コーラル”と言います。
 パワーストーンの一つとされ、珊瑚からとられたものです。
 透き通る天使の肌のような色合いから、そう呼ばれています。」


言われてみれば、確かに柔らかな天使の肌を思わせる色合いだった。

「この石の石言葉は、何というんですか?」

「エンジェルスキン・コーラルの石言葉は、

 “変わらぬ想い”。

 情緒を穏やかにして、愛で満たすと言われています。」

「変わらぬ想い・・・。」

「いかがですか? こちら、あまり普通の店などでは見かけないものです。
 ご希望でしたら、ストラップでも、ペンダントヘッドでも、ピアスにでもできますが。」

変わらぬ想い。

長い間側にいて、当たり前に感じていた幸せのありがたみが、
離れていくことで初めて思い知る。

たとえ、離れていても、この気持ちは変わらない。

「すみません、これをピアスにできますか?」

「かしこまりました。」

10分ほど待つと、ビロードの小箱にいれられた二つのピアスが並べられていた。

「お待たせいたしました。 このような感じですが、いかがでしょうか。」

それは、薄い乳白色な肌色のエンジェルスキン・コーラルの石の色が
鮮やかに生える小さめの可愛いピアス。

「とても、素敵です。 こちらをいただけますか。」

「ありがとうございます。」


更に丁寧に包装されたそれを手にして、私はその店を後にした。

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