『めぐり逢えたら -最終部-』 |
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【朋美Side17】 和美の言葉をただ聞いている事しかできなかった時、不意に和美が話題を切り換えた。 「朋美・・・、ごめん・・・、あの日・・・、」 あの日の事、 あの夜、和美が私を抱いた時のことに、和美は触れようとしていた。 和美が切り出そうとした時、 「和美、あのね、あの時の事、私あまり覚えてないの。」 和美の言葉を遮るように、私は先に言葉を口にした。 「えっ?」 「あのね和美、私、あの時の事、本当にあんまり覚えていなくて。 だからあの朝、あの手紙一つ置いて、突然いなくなった和美の事が本当に心配だったの。」 「あ、あのね、朋・・、」 「和美、いいの、もういいの・・・。」 あの日の事を、和美に気にして欲しくなかった。 和美はもう、十分に苦しんだ、だから、もうこれ以上、苦しんで欲しくなかった。 「でもっ!!」 もういい、と伝えた側から、隣りに座っていた和美は、 尚も、何かを言おうと、体を大きく私の方へ向け、苦渋に満ちた顔を私に向ける。 「和美・・・、もういいから、もう何も言わないで。」 和美の青ざめかけた頬に、そっと手を寄せ、愛おしい気持ちを込めて微笑む。 「ごめん・・・、ごめんなさい・・・。」 俯いて、涙で隠った声、尚も私に謝罪の言葉を述べる和美。 泣いて欲しい訳じゃない。 もう、そんな悲しい顔をして欲しくない。 「和美、今、こうして全部話してくれて、今、隣りにいてくれて、それだけで、もう十分だから。 だから、もう、そんな悲しい顔をしないで。」 「ありがとう・・・、朋美。」 まだうっすらと涙を浮かべながらも、和美は顔を上げて、泣き笑いの顔を私に向けてくれた。 半分泣いているけれど、心からの笑顔が、とても眩しかった。 あの夜の事は、私の中だけの思い出でいい。 あの時、確かに和美は私を抱いてくれた。 狂おしいほど求められ、そして夢心地のまま私は和美の腕の中で果てた。 和美の口から、それを否定して欲しくなかった。 無かったことにして欲しくなかった。 和美の胸の中にも、あの夜の事は残ってる。 私の胸の中にも、消えない思い出として刻まれている。 それだけで良かった。 互いのわだかまりが取れた時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。 職場へ戻りながら、何も言葉を交わさなくても、私たちの顔は綻んでいた。 この時、和美が会社を辞めても、その後もずっと、私たちの友情は変わる事がないと思った。 |
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