『めぐり逢えたら -最終部-』
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【朋美Side16】

昼のチャイムが鳴り、予めコンビニで買ったお昼を持ち、職場から出る人の波に乗って
屋上へと上がる。

屋上への扉を開け、外の空気を感じると空は明るく眩い光が射し込んで来ると同時に
爽やかな風が頬を通り過ぎる。

「気持ち良い・・・。」

いつもの2人の特等席であるベンチに腰掛け、和美が来るのを待つ。
しばらくして、背後から聞き慣れた足跡が聞こえてきた。

振り返ると、日差しを眩しそうに見ている和美の姿が目に入る。

「お待たせ。 それじゃ、食べよっか。」

「うん。」

「いただきます。」
「いただきます。」

私はおにぎりを、和美はサンドイッチを口にする。
食べながら、和美が当たり障りのない話しをする。

体調はもういいのか、今日はいい天気で気持ちが良い、引継の資料づくりが大変だ、など。
私は食べながら相づちをする。
これらの話を耳にしながら目を閉じれば、きっといつもの当たり前の日常だと思うだろう。

お互い食べる物を食べ、私はお茶を、和美は紅茶を飲み干すと、一瞬沈黙の間ができる。

いつもと同じ日常と決定的に違うのは、これから和美が口にする話。

「どこから話せばいいかな・・・」

視線をどこか遠くに投げながら、和美は話を切りだした。

お父さんが倒れた事、
倒れて駆けつけ久しぶりに再会した両親が老いていて驚いた事
付き添いのお母さんがやつれていた事、
自分が一人っ子でいずれは家に帰るつもりだった事、
退院したご両親の側にいることを決めた事。

だから、会社を辞める決意をした事。

ここ数週間の間に起きた出来事と重ね合わせ聞いて、
和美がおかしかった理由が解った気がした。

実家で起きた事、そして会社を辞めるまでの経由を話してくれた。

何も知らなかった。
和美がどれだけ悩んでいたのか、どれだけ苦しんでいたのか。
何も知らなかったとはいえ、側に居ながら何もできない事が、ただ哀しかった。

私には、既に結婚している兄がいる。
その兄夫婦と一緒に両親は現在同居している。
私はいかに自分が恵まれていたのかを思い知った。

和美は、10年勤めた仕事を辞め、自分が積み上げてきた物を全て捨てる。
自分の将来よりも、まず自分を育ててくれたご両親への恩を返すために。

私は・・・、私は、ただ去らなければならない和美に、
なんと言っていいか解らなかった。

和美より恵まれている境遇を持つ私には、和美に応えるべき言葉がみつからなかった。

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