『めぐり逢えたら -最終部-』
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【朋美Side15】

月曜日、今週で和美が会社を辞める。
もうゆっくり離す時間も限られている。 定時後も、時間が取れるか解らない。

結局、和美からの連絡はなかった。
それどころか、和美は私のマンションの入り口で、滝川さんと鉢合わせになった。
そのことを、どう説明するべきか、どう話すべきか・・・、

そんな事を考えながら出勤し、更衣室で着替えていると・・・

「おはよう、体調はどう?」

突然、聞き慣れていて、しばらく聞けなかった声が、背後から聞こえてくる。

振り返ると、いつものように、優しい笑顔で和美がそこに立っていた。

「あっ、えっと、あっ、もう大丈夫。 ごめんね、この間心配かけて。」

「良かった。」

そう言うと、自分のロッカーへ行き、着替え始める和美。

いつもと同じ朝の風景、たった1週間振りなのに、こんな当たり前の朝を
久しぶりに迎えられて、涙が浮かぶ。

気付かれないように、そっと目元を押さえて、いつものように和美の着替えを待つ。

「お待たせ、行こっか!」

着替え終わった和美が、いつもの朝のように、声を掛けてくる。
うなずき、更衣室を後にする。

「ごめん、結局携帯に電話しなくて・・・・。」

職場までの道中、和美が小さな声でそう呟いた。

「うぅん、いいの。 ごめんね、こっちこそ、しつこくメールしたりして。
 それと・・・、昨日和美、うちに来てくれたんじゃ・・・。」

滝川さんがマンションの出口で和美とばったり会ったことを確認するために聞こうとした時、
私の言葉の語尾を和美は遮った。

「今日、昼休みにちゃんと全部話しすから。」

和美がそう口にしたと同時に、職場にたどり着いた。

「うん、解った。 それじゃ、お昼にね。」

やっと笑顔で和美と話せた。 良かった・・・。

和美がちゃんと話をしてくれる。
心の中が、静かにゆっくりと安心感で満たされたけれど、
結局昨日見舞いに来てくれた事を聞きそびれた。
でも、和美のその一言で、全てがどうでも良く思えた。

午前中、穏やかな気持ちで、過ごす。

和美が、あまりにも穏やかな顔で、穏やかな笑顔で話しかけてくれたから、すっかり忘れていた。

昨日、滝川さんと和美が私のマンションの入り口で鉢合わせになった事、
私が、ゲイ(同性愛者)だということを知られた事を。


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