『めぐり逢えたら -最終部-』
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【和美Side6】

久しぶりの出勤に、緊張しながら更衣室のドアの前に立つ。
いつもなら、朋美の方が先にロッカーの前で制服に着替えている。

更衣室には、私と朋美以外の女性がいる。
2人だけではない、他の人の目がある以上、あまり話しはできない。

覚悟を決めて更衣室に入り、朋美のロッカーに視線を向けると
いつもの朋美の後ろ姿が目に飛び込んでくる。

心臓がとたんに激しく鳴り出す。
周りに聞こえているんじゃないかと思うほどに、鼓動が激しく鳴り響く。

「おはようございます。」

突然、着替え終わり、更衣室から出ようとする他の女性に挨拶される。

「お、おはようございます。」

慌てて挨拶を返すと、私の声が朋美に聞こえたのか、
遠目から見ても、朋美の背中がビクンと一瞬動いたのが見えた。

朋美が気付いた。

私の存在に朋美が気付いたのは解ったけれど、自分から声を掛けられなかった。
いつもなら、背中越しに朋美に挨拶してから自分のロッカーの前に立つけれど
今日は、何も言わずに無言で自分のロッカーの前に立った。

横から朋美の視線を感じたけれど、顔を向けられなかった。

制服に着替えていると、視界の端にうっすらとあった朋美の影が消えた。
振り向くと、朋美は更衣室から出ていた。

いつもなら、後から来た私を待ち、一緒に職場へ向かうのが日課だったのに。

あの日から、私たちはすれ違ってしまった。
大切でかけがえの無かったものが、失われていく。 原因は自分。

着替えながら奥歯を噛みしめ手が震える。

ダメだ、今はまだ耐えなければ・・・、

ぐっと堪える。 朋美に目の前で拒絶されても、今は耐えなければならない。
朋美に、きちんと目の前で話をし、謝罪するまでは。

自分の心に激を飛ばし、ロッカーを閉めて更衣室を後にした。

廊下へ出て、職場への入り口のドアを開けようとした、その時・・・

「和美・・・。」

背後から、弱々しい、けれどいつも耳にしていた酷く懐かしい声が聞こえてきた。
ドアノブから手を離し、静かに振り返ると、朋美がそこに立っていた。

「と、朋美っ!?!!」

久しぶりに見た朋美の姿を見て愕然とした。

顔色が悪い、痩せたというより、やつれ、
目は赤く晴れ、青く隈ができていて、寝不足であることが一目でわかった。

「和美・・・。」

何かに取り憑かれたように、ふらりと私の目の前に近づく朋美。
おもむろに左手が伸ばされ、私の頬へあと少しで触れるという所で、
朋美の体が膝から折れ、私の方へと倒れ込んできた。


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