『めぐり逢えたら -最終部-』
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【和美Side5】

「それじゃ、戻る日が決まったらまた連絡するから。」

「そっちの引っ越しの手伝いはいいの?」

「うん、大丈夫。」

「気を付けてな。」

「お父さんも、まだ当分は無理しちゃダメだからね。」

「わかった、わかった。」

「それじゃ!」

水曜の朝、実家を後にして自分の部屋に戻った。


数日ぶりに戻る自分の部屋のドアを静かに開ける。
部屋に入るのがとても心苦しかった。

この前の金曜、強引に朋美を抱いた夜。

戻る部屋は、あの日のままで、自分の犯した罪が溢れそうで怖かった。

それでも意を決して部屋へ入る。
恐る恐る居間へ入ると、いつもの部屋のままだった。

ベッドもきちんと片づけられ、いつも自分が仕事帰りに帰る部屋のままのようだった。
朋美をこの部屋に置き去りにした形跡はなにもなく、あの日の事は、何もなかったような
そんな錯覚さえする。

けれど、居間のテーブルの上を見て、あの日の事が現実だったことを確信する。
部屋を飛び出す際に、テーブルの上に置き、書き置きした手紙と部屋の合い鍵がなくなっていた。

荷物を部屋に投げ置き、携帯をバックから取り出す。

こっちに戻った以上、部屋に電話を置いているものの、母親は
何かあったら携帯に電話を掛けてくるかもしれない。

仕方なしに携帯の電源を入れると、

“新着メール 7件”と表示される。

見なくても差出人は朋美と解る、朋美しかいない。

怖くてメールを開かなかった。
何が書いてあるかが不安で。

責められている気がして、憎悪の言葉が限りなく書かれている気がして。

全て私に宛てに投げつけられた言葉は受け止めなければならない。
解っているけれど、今は、その覚悟ができていない。

見てしまうと、金曜に会うのが怖い。
そのメールを見てしまいえば、会って話すのが怖くて、また逃げ出してしまう。

だからメールは見なかった。

その日は、マンションの管理人にマンションを出る事を伝え、
電話、電気、ガスを止める連絡をつけ、引っ越し業者への連絡をした。

引っ越しは次の週の週末。 あと1週間と少し。
朋美と会うまでの残りの時間は、引っ越しの準備に追われた。

そして、再会を約束した金曜日、眠れず寝不足気味だけれど、覚
悟を決めて会社へ向かった。

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