『めぐり逢えたら -最終部-』
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【和美Side3】

「私、来月からこっちに戻るから。」

久しぶりの母親の手料理を、家族で囲みながら、話していなかった父親にその旨を伝えた。

「おまえ、今勤めている会社は、どうするんだ?」

一応病人食っぽいものを口にしながら父親に問われる。

「今月で退社して、こっちで仕事見つける。」

「いままで勤めた会社を辞めるのか? おまえ、こっちで何するつもりなんだ?」

怒っている訳ではない父親の問いは、私の将来の事を心配している。

「いずれこっちに戻るつもりだったから。 仕事はちゃんとこっちで見つける。」

「もしかして、俺が倒れたからなのか?」

自分が倒れたのが原因なのかと、心配な表情で聞かれる。
母親は、何も言わずに黙って耳を傾けている。

「早いか、遅いかの違い。 多分、これもきっかけなんだと思う。 だから、気にしないで。」

そう、これはきっと、きっかけに過ぎない。
いつかは、実家に戻るつもりだったのも、本当の事。

「・・・・。 そうか・・・、すまないな・・・。」

低く辛そうに、ぼそっと父親が呟く。

「お父さんが謝る事なんて、何もないってば。
戻るんだったら、早いほうがいいと思うし。こっちに戻ってから、新しい仕事探すからね。」

父親に、今回のことで、私に負い目を持って欲しくはない。
だから、気にしないように、明るい声で、笑顔で伝える。

これでいい、
ここで、新しい生活を始めるのがいい、
これで、もう朋美を傷つけることはない・・・。

夕飯を口にしながら、両親に気付かれないように、押し込んでいた想いを更にぐっと飲み込んだ。

夕食を終え、久しぶりに自分の部屋に戻る。
この間実家に戻った時は、自分の部屋には入らず、1人居間で過ごしたから。

実家に戻るたびに、昔と何も変わらない自分の部屋へ戻る度に、
懐かしい思いに浸っていた。

久しぶりの自分のベッドに体を投げ出し、天井を見上げる。

昔から何十年もこの天井を見上げてきた。
学生時代から、ずっと。

もし、昔に戻れたなら・・・、
朋美と出会う前に戻れるのなら・・・

こんな事になるなら・・・、
こんな想いをするなら・・・、

出会わなければ良かった。
近づかなければ良かった。

好きにならなければ良かった。

朋美を傷つけてしまった後悔が、瞼を閉じる度に押し寄せて、苦しく悲しかった。


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