『めぐり逢えたら -最終部-』
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【和美Side2】

電車を乗り換え、父親が入院している病院へと足を運ぶ。

昨日の精密検査の結果が良ければ、今日そのまま退院できるとの事だった。

両親に、自分が不安定な状態であることを気付かれる訳にはいかない。

タクシーが病院へ付く間に、頭の中の朋美の姿を強引に追い払い、
父親だけの事、母親だけの事、家族の事だけを考えることに集中した。


9時、父親の病室を静かにノックすると、母親の声が聞こえた。

「おはよう、今大丈夫?」

「あら、こんな朝早くに来たの?」

母親は柔らかい笑顔で部屋へ迎え入れてくれた。

「和美、心配かけてすまなかったな。」

倒れてから初めてベッドに上半身を起こし、緩やかに微笑みを浮かべる父親の姿を眼にすると、
この間来た時の緊張感と不安がいっきに解消されて、気が緩んで涙が溢れた。

「お父さん・・・、良かった、本当に良かった・・・。」

それ以外の言葉を口に出来ず、父のベッド脇に座り込み、
零れる涙を隠すように、両手で顔を覆った。

「お父さん、多分今日退院できると思うわ。 だから、和美も一緒に家に帰ろうね。」

気が緩んで涙が止まらない背中を優しくさすられ、母が声をかけてくる。

「和美は、今日はこっちに泊まれるのか?」

「うん、少し休み取ったから、こっちに4、5日いられると思う。」

涙を拭いながら、安堵と嬉しさで泣き笑いの顔で、実家に少しいることを伝える。

「あら、そうなの? なら、久しぶりにうちでゆっくりしなさい。」

「うん。」

久しぶりの家族3人の会話が、とても懐かしく感じて、心が温かいもので満たされる。

「それじゃ、お世話になった看護婦さんと先生にお礼を言って、お昼に帰りましょうか。」

「うん、そうだな。」

「それじゃ、荷物まとめるの手伝って。」

「うん」

その後、回診に来た担当医と看護婦にお礼を言い、荷物をまとめて昼過ぎに、タクシーで
病院を後にした。

久しぶりの我が家に戻った父親はとても嬉しそうで、布団に横になりながらも、
いつもの寝床に安心したのか、そのまま寝入ってしまった。

あらあら、お父さん安心したのね・・・、と言う母親も、安心したのか、嬉しそうにしていた。

この間は、1人で広く冷え切っていて、孤独を感じた我が家が、温かく懐かしい、
自分の帰る場所になった。


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