『めぐり逢えたら -最終部-』
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【和美Side1】

逃げるようにして列車に飛び乗る。
車中で目を閉じると、昨夜の事が瞼の裏に蘇る。

強引に奪った唇
なりふり構わず力ずくで触れた肌
聞くだけで体中が痺れた喘ぎ声
全身で感じた柔らかく熱く火照てた体
登り詰めながら背中にたてられた爪の痛み

夢のような甘美な記憶
もう2度と取り返しがつかない悲惨な現実。

触れてはいけない禁忌を破って満たした己の肉欲
相手の想いを踏みにじり、今まで得た信頼を全て裏切り
一番大切な人を、自分の強欲のままに、襲った。

こみ上げる想い、もう側にいられない悲しみに、理性が粉々に砕け散った。


理由も聞かず、何も問わず、『いいよ』と囁いた朋美の声。

甘く掠れた声を耳にして
長い間心に押しとどめていた想いと欲望が決壊した。

貪り、官能の波に身を委ね、
欲望と快楽の後に残ったものは・・・

全身を刺し貫かれるほどの罪
自らの心臓をえぐり取り、息絶えてしまいたいほどの後悔。

この身で罪を償えるのなら、全てを投げ出しても構わない。
取り返しのつかない己の罪に、周りの全てのものが、
自分を非難しているように思えた。


自分の勝手な想いで、最愛の人を汚した。

許されざる罪、
赦される事を望んでいない自分。

十数年一緒に過ごした信頼と友情の絆を引きちぎり、
朋美の中の私の記憶は、不快と軽蔑と憎悪に塗り替えられる。

逃げるように、書き置きをして部屋を飛び出した
卑怯な自分に怒りが込み上げる。

自分自身への怒りと、朋美への詫びようがない懺悔の想いが交差する。

かといって、あの場で目覚めた後、朋美に会わせる顔などない。

一週間後、きちんと話すると書いたものの、
一体、何をどう説明をすればいいのか、何をどう話しをすればいいのか、
全く考えられずにいた。

一週間・・・、
一週間後までに、冷静に頭の中を整理しよう。
きちんと、朋美の前に立てるように。
なじられようと、罵倒されようと、
朋美の言葉の全てを、きちんと受け取れるように。

流れる窓の風景に視線を流し、視界が次から次ぎへの移り変わることを感じると、
時の流れの早さを思い知らされるようにで、せつなくなった。

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