『めぐり逢えたら -最終部-』
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【朋美Side4】

よくよく考えれば、ごく自然な事。
私が無意識に、考えないように、そうならないように、避けていた現実。

「・・・下さん? 松下さん???」

「あっ、はい?」

名前を呼ばれて我に返った。
こんなこと、聞かなければ良かった。

知らなければ良かった。

「急に黙っちゃうから、どうかしたのかと思った。 大丈夫?」

「すみません、昨日から少し寝不足だったから。」

「そっか、そんな所無理させちゃって悪かったね。」

「いえ、大丈夫です。」

「それじゃ、食べるものだけ食べて、今日はもう帰ろうか。」

結局、その後何も口にできないまま店を後にし、駅で勝村さんと別れた。

寝不足か、疲れが出たのか、体が異様に重く感じる。
頭の中では、勝村さんから聞いた言葉が何度も壊れたレコードのようにリピートされる。

”今も一人でいるところを見ると、まだその人の事、想っているんじゃないかな。”

やっとの事で、部屋にたどり着いてベッドに横になると、
割れるような痛みと、ぐちゃぐちゃになった思考に頭が締め付けられた。

今日初めて知った事、そして結びついた事実。

和美の長い片思い、
捨てられたクリスマスカード、
そして、置き去りになっていたプレゼント、

解らないこと、残された謎。
突然の退職、
突然、和美に抱かれたあの夜、

全てを知りたいと思っていても、
きちんと話をして欲しいと願っていても、
連絡が取れず、鳴ることがない携帯。

避けられている不安、愛しい人を失う恐怖。
その先にある絶望。

その日から、いくつかの眠れぬ夜を過ごし、
更に、食べるものもほとんど受け付けなくなった体は
全ての神経が麻痺し、、意識は朦朧としていた。

それでも、会社にいる間は、迷惑をかけないように仕事にのめり込み、
栄養剤とビタミン剤だけでどうにか保たせた。

帰宅しては、何も考えないようにベッドに倒れ込むものの
目を閉じると一斉に押し寄せる絶望感と孤独感が意識を支配し
最悪な妄想だけが脳裏に浮かんでは、涙を流した。

いっその事、このまま壊れてしまえば・・・、
何も解らないほどに、めちゃくちゃに壊れてしまえたら・・・
逃げだそう、全てを投げ出そうと考えてみても、
砕け散ったはずの理性が、どこからか降って沸き、
自分が起こそうとする最悪な事を押し留める。

そうして、這うように過ごした4日後の金曜日、
最初は待ちこがれていた、けれどいつしか、来ることを望まなくなった
和美との再会の日を迎えた。

寝不足で隈がができた目、血の気を無くした色の悪い肌
真っ青にくすんだ唇。 こんな姿を和美に晒したくなかったけれど、
全てを話してもらう為に、体を奮い立たせて会社へ向かった。

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